双子は同時に帰る

もう一つ気になったのは、双胎の1人はまず確実にNICU入院だとして(もともとその子がそれ以上悪くならないための帝王切開だから)、もう1人をどうするかと言うこと。
二人ともお母さんの手元に置いて帰れるのが一番よい(帝王切開を推奨した産科医の面目は少々傷が付くかも知れないけれど。でも思いのほか元気でしたと言われて腹を立てる親御さんがあろうか)。でも、どうしてもNICUに連れてこなければならないのなら、二人揃ってお連れしたいものだと思った。
元気な1人をお母さんの手元に残して弱い1人を引き離しNICU入院というのでは、後でその弱い方に虐待のリスクが増す。


これはもう調べた人があって、確かな結果である。余程重篤に病的な心理的・社会的状況ででもない限り、双胎の子どもを二人とも虐待する親御さんはない。双胎に生じた虐待例の大多数で、虐待されるのは双胎の片方だけである。それも病弱な方に集中する。病弱な故に入院が長くなり、親子の間が同胞に比べて(恐らくはほんの少しだけ)疎遠になる。病弱な故に親御さんからの働きかけへの応答も(ほんの少しだけ)弱くなる。病弱な故のほんの少しの発達の遅れも、一人っ子なら十分に個人差の範囲で納得できようものを(頸の座りが4ヶ月か5ヶ月かなんて国試前の医学部生以外の誰が気にする意味があるのか?)、比較の対象が毎日傍にいる故に目に付いてしまう。親子の関係は、他の全ての人間関係と同様に、そのほんの少しの齟齬が積もり積もって壊れていく。
搬送に当たっての、私の最大の心配事は、もう1人の子を置いていけと要求されないだろうかということだった。帝王切開中の手術室とか家族の待つロビーとかで、双胎の虐待リスクに関して議論をするのは望ましいことではない。
幸いにと言ったら罰が当たるかも知れないが、もう1人の方もそれなりにNICUに連れて行かねばならぬ(しかも幸いにそれほど重症ではない)状況であった。よしよし付き添ってきてくれ。
二人ともNICU入院後の経過は落ち着いている。むしろ優秀な二人である。
退院も二人同時でなければならないと思う。
「多胎は同時退院」のポリシーを、私は徹底してきた。
新生児病棟から退院したばかりの乳飲み子を1人抱えた状態で、まだ入院中のもう1人に面会に足繁く病院に通うなんて、大抵のお母さんには不可能である。実際に、双胎の1人だけを先に帰してしまったりしたら、それまで毎日お出でであったお母さんの面会がいきなり週1回になったりする。新生児なんて1週間見なかったら人相変わってますよ。
1人だけでも育児は大変だ。夜中も3時間おきに空腹で泣く赤ん坊にふらふらになっているときに、もう1人が退院してきたりするともうカタストロフィックだろう。泣く位相がずれたら3時間おきが1.5時間おきになる。大変なときにますます大変な負担を増してくれてと、こういう事態で恨みに思われるのは大抵は後から帰ってきた方である。その、後から帰ってきた子の方が、病弱で些か扱いにくかったりしたら尚のことである。泣きやむタイミングが僅かに遅い、見つめ返す視線が僅かに弱い、その僅かな齟齬が、何遍も繰り返すけど、積もり積もるのだ。
決して、親御さんの人格を見くびって、虐待をする親だろうと言っているのではない。
人格が高潔だから虐待をしないと考えるのは、高級車だから撥ねられても死なないと考えるのに似ている。愚かな見当違いである。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中