先だっての小児科カンファレンスで、未熟児新生児学会から帰ってきた部長が「医療費包括化」の話をしていた。いま大学病院とかから導入されはじめているシステムである。我々のところのような中小規模私立病院はおそらく最後尾での導入になるのだろうと思う。大学病院で四苦八苦されておられる先生方のお話を戦々恐々として聞いているところである。まあ、私はまだ管理職じゃないしってんで半分くらい他人事気分だが。
訳の分からないのは、病院毎の報酬総額に何か訳の分からない基準による 0.7~1.4の範囲の係数が掛けられるということだ。これこれの疾患を拝見しましたと例えば1000万円の支払いを請求したとしても、ある病院ではその請求に対して700万円しか保険からの支払いが無く、別の病院では同じ請求内容でも 1400万円支払いを受けるということだ。現実に大阪のある大学病院ではこの係数が0.7に設定されてしまってだいぶご苦労だとのこと。逆に石川県のある大学病院では1.4なのでけっこうほくほくだそうな(まあ、ほくほくったって以前ほどの左うちわではないんだろうけど)。
この係数を決める基準はそれまでの収益だそうなと部長は言う。今年は頑張るぞーとか言って熱心に働いて前年度比の例えば1.5倍とかの請求を出したとしても、それなら君のところの係数は1.0から0.8まで減らしましょうかねと言われてしまったらやる気がどーんと落ちる。逆にまあ適当にやってて前年度比2割引の成績しかあげられなくっても、それなら係数を1.2くらいにしましょうかと言って頂けたらあまり痛くない。
医療費包括化の主目的はむろん医療費総額の削減にあるのだから、こうすることで病院毎の支払い総額を頭打ちにし、しかも頑張って稼ぐ病院のやる気を削ぎおとしつつのほほんと怠ける病院を奨励することでなおさら医療費の伸びを防ぐというのは、目的には適うやり方なのだろうねと思う。凄く浅はかで賢しらな奴が考えることだろうと思うけど。
「一物二価」ってのは商売では決してやっちゃいかんことだよと、私は幼い頃に父に教えられた。今まで父の教訓が外れた例はないので(その割に父は貧乏だったが)、今回もたぶんこれは厚生労働省がやっちゃいかんことをやってるんだろうなと思う。同じ診療内容で病院間の報酬の格差が2倍あるんだから。
でも金融庁も羨ましいだろうね。銀行毎に係数を付けて、君のところは言うことよく聞くから係数1.4で預金総額を4割り増しね、とか、君のところ不良債権を片づける努力がぜんぜん足りないから係数0.8ね、とか言われたら銀行は震え上がるだろうね。お役所の言うことをよく聞くようになるだろうな。行政側は無敵になるね。ついでに贈収賄の温床にもなるだろうけど。預ける方はたまらない。銀行を間違えたら預金が2割減とか。そういう話じゃないのかな。
不透明で恣意的なシステムで支配下のものの生殺与奪の権を握り、しかも報酬ややる気をあの手この手でじわじわと削いで行く、まるで厚生労働省は徳川幕府である。そのうち参勤交代が復活するかも分からない。全国の病院の院長の家族は全員東京に住むべしとか、隔年で東京と地元を往復しろとか、往復の時には道中の各地で一流旅館を貸し切って散財しろとか、病院の格で部下を何人連れてこいとか。いきなり国替えとかあったりして、突然病院スタッフまるまる岩手県あたりに飛ばされたりとか。
医療費包括化をDPCと略するらしいが、これはおそらくDekirudake Poor & Cheap の略なんだろうね。
