医者の仕事の配分

 8時に出勤してみたら小児科の女医が医局のラウンジでテレビを観ていた。病棟に受け持ち患者が一人もおらず、管理職でもなく、研究活動をやっておられる訳でもなく、出勤後いきなり仕事が無いのである。私はと言えば前々日は宵の口に超未熟児の双子の受け持ちになって徹夜して、その明けに今度は呼吸困難の仮性クループの子まで抱え込み、前日は這うようにして帰ったのである。ちょっと不公平なんじゃないかと思う。働けば働くほどなお一層働くことを義務づけられるのが医者の仕事配分なのだとは10年やってて今まで知らなかったわけではないけどさ。診た患者さんの人数とか重症度とか出来高だとかで給料が決まるわけでもないのにね。能力に応じて働き必要に応じて受け取るってのは共産主義の究極の理想だが、うちはたしかキリスト教病院のはずなんだけど。
どんな職業であれ徹夜で働くことは時にはあろうし、今さら怠けたいとか働きたくないとか臆面もなく言えるほど誇りを失ってもいないつもりではある。しかし公然と遊んでいられる人があるのと全員が目一杯頑張っているのとでは無理して働くときの納得の度合いが違う。こと私自身に関して言えば、不平不満の度合いを決めるのは仕事の絶対量ではなくて(何だかんだ言って嫌いな仕事ではないしね)配分の不公平さの程度のようだと自覚している。凡人だよなあとは自嘲してしまう。
まだ若手が配属になってなくて、入院患者はみんな私が診ることみたいな雰囲気だった頃、配分に不平を言ったら、部長に、まるで彼は診療能力を欠いているからみんなでお手伝いしようみたいな言われ方をされた。俺たちは本当は働く必要がないんだけどお前が辛いなら親切にも手伝ってやると言われたような気がした。それ以来、他の医者の前では心して文句を言わないようにしている。ただ、いちどゴミ箱を蹴り倒したのを病棟主任に見られた。ばつが悪かった。