母乳育児の運動から一歩引いて

「母乳サイエンスミルク」という明治乳業の製品命名が、母乳育児普及に熱心な小児科医の激昂を買っている。小児科医のMLで怒りの声が上がり、抗議文書に続々と参加表明が寄せられ、いつの間にかマスコミの目にとまった。
でもこの記事だとネーミングさえ改めたら問題なしという印象を与える。「些細な言葉遣いに目くじら立てて大人げないものだ」などと、抗議した側の印象が悪くなりかねない。ミルクなんて徹頭徹尾善意の塊にしか見えない製品に単に名前のつけ方が悪いってんで連名で抗議だなんて小児科医って恐い奴らなんだね云々。世のお母さんたちには「母乳サイエンスミルクは小児科の先生には嫌われてるのね。うちの子には飲ませてるけど先生には知られないようにしとこう」位にしか思われないんじゃないだろうか。
問題の本質は名前のつけ方の善し悪しではない。多くの赤ちゃんが母乳じゃなくて人工乳で育ってるってこと自体にある。小児科医有志が怒ってるのは名前だけじゃなくて存在自体。
母乳がいいに決まっている。人工乳は母乳を究極の目標として開発が進められている。しかし現状の人工乳で「母乳に限りなく近づけた」と称するのはミルク屋さんも謙虚さが足りないと思う。H2Aロケットの打ち上げが成功したって、種子島の誰も「木星行き宇宙船に限りなく近づけた」等とは言わなかったはずだ。性能を論じれば今の人工乳と母乳の違いはH2Aロケットとコメット号(キャプテンフューチャーが乗ってた)くらいに違いますからね。見た目が似ているもので比べるならば往年のC62と999号くらいに違います。加えて、母乳は架空の産物ではなくて、普通に手に入ります。
それはわかってるつもりなんですがね。
でもやっぱり、今回の抗議呼びかけは私自身も何か恐かったですね。
結局、人工乳を売る商売が成立するのって、これから赤ちゃんを産む女性や、女性を取り巻く社会の皆様に、母乳の有り難さを十分分かって頂けてないってことなんですよね。世の中の皆様が、人工乳の必要性をお認めになってるからこそ人工乳を売って儲ける商売が成り立つわけで。母乳の有り難さが分かって頂けて、育児の最初の最初から母乳が十分出るようなケアをさせて頂いて、女性が母乳育児を続けていけるようなサポートを社会の皆様に呼びかけて、そういう地道さと、今回の抗議活動が、なにかそぐわない気がしましてね。
母乳で育てて頂こうって思ってもさ、「母乳育児しましょうね」と呼びかけるだけではお母さんたちに要らんプレッシャーをかけるだけなんだよね。母乳育児を言うのなら母乳が十分出るようなケアを提供しなくちゃいけない。たとえば分娩後の赤ちゃんをいきなり新生児室に「お預かり」したり初回哺乳は分娩後まるまる半日たってからブドウ糖液で始めたり、産科退院のおみやげにミルク屋さんから提供された人工乳と付属品一セットを渡してたり、そんな実践してる産科やその産科にものが言えない小児科が、お母さんにだけは母乳育児の効用を説いてても、そりゃあ説得力無いわ。

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