本来の母乳育児支援は、今現在直接に関わりのあるお母さんと赤ちゃんに対してしか、行えないのではないかと思う。世間の母子の何パーセントが母乳育児でとか、あるいは当施設では他施設平均と違って母乳育児率が高くて云々とかいった公衆衛生的な視点は、臨床の場にあっては参考にこそすれ、第一義のものではないと思う。
自分のところでお産になったり、赤ちゃんをNICUにお預かりしたり、そういうご縁のあった方々に、丁寧に母乳育児をお勧めしていくことしか、ないんじゃないかと思う。何人中何人ではない。つねに、一人中一人。
京都市内のある病院では完全母児同室を実践したら分娩入院が減ったそうだ。うちのベテラン助産師も、お産の後くらいは休みたいと仰って母児同室を敬遠なさる女性がけっこう多いと言う。お産後30分とか1時間とかで初回の授乳(もちろん母乳)・その後の24時間以内に8~12回の授乳、というのが母乳育児成功の端緒なのに、そのゴールデンアワーを母児離れてのほほんと寝ててどうするんだと思う。でも、寝るな怠け者!と産後の女性を叱咤激励しても、確かに人気は落ちるだろうと思う。
お産の直後から母乳哺育に取り組んで頂くには、お産の前から母乳哺育の意義についてしっかり申し上げておきたいものである。あまり高邁な事ばかり申し上げても妊婦の皆さんは腰が引けるばかりだろうし、今さら母性愛がどうの母児の心のつながりがどうのと歯の浮くようなことは申し上げるのも薄ら寒い。むしろたとえば「子どもが熱を出したから今日は早退させてください」と雇用主に言わねばならぬことが格段に減りますとかいう経済社会的なインセンティブを絡めて良いと思う。
お産が疲弊するだけの重労働だという位置づけを改めることが大事だと思う。「オニババ化する女たち」で三砂ちづる先生がお書きになったような、赤ちゃんを産み落としたばかりの女性が「ああまた産みたい」と仰るような至高の体験とできたらよいと思う。分娩で疲れたから母乳育児はひとまず置いておく、というのではなくて、分娩の勢いに乗ってそのまま母乳育児に突入できるような、そういう分娩であったらよいなと思う。そういう分娩に出来るような、助産側の実力が要ると思う。
赤子は母乳のみにて育つにあらず。
