JR福知山線の脱線事故は、当日の午後に医局のうわさ話で知った。割と近くで大きな事故ですねと語る奴らの顔が興奮に輝いていた。実に嬉しそうだった。こいつらが現場に居合わせたところで、とっさにやることは救助活動よりもまず記念写真撮影なんだろうな。
帰ってから見たテレビでは、JR西日本の社長が、犠牲者の遺体を安置してある体育館を訪れていた。入り口で多くの取材記者に取り囲まれて前進できなくなっていた。取材陣から怒号が飛んでいた。社長が遺族に会うことをすら妨害してでも社長を罵倒することが彼らの正義であるかに見えた。取材対象とコミュニケーションを成立させて有益な情報を得ようとする意思はかなり薄そうだった。それでも、随分と楽しそうだった。
我知らず溢れる喜びの表情に、この面々の品性の程度が垣間見えた。
妻は息子に事故報道を見せないようにしていた。事故現場など破壊系の映像は頭から離れなくなるらしく、見せると当面は壊れちゃった壊れちゃったと繰り返しつぶやき続ける。「壊れちゃったね」と確認を求められるのも頻回に及ぶと周囲もうんざりしてくるのだが、本人も、反芻して楽しんでいるのではなく、映像に取り憑かれて苦痛を感じているらしい。面倒くさい性分ではある。しかし、卑しくはない。
