傍目八目とは言いますが

ちょっと怒ってみるを拝読して、口を出させて頂きたくなりました。
小児救急や新生児の問題はまだ世間に認知されてるだけマシなんだなというのが率直な感想ではありました。この人知れぬ激務には敬意を表します。日夜こうして世の中の幸福の総量を嵩上げしつつあるお仕事に感謝したいと思います。あとはお体に気をつけてと続くのが一般的なご挨拶なのでしょうが、それで済むなら他人事です。医師免許持ってる人間が一日3時間も寝てない人たちに「身体に気をつけて」と申し上げるのはあたかも映画「火垂るの墓」で兄妹に「滋養をとれ」と指導した医者にも似て些か職業的誠意を欠くように思います。それに、absinth先生の大学病院にもNICUはあるんだろうし、NICUではたとえば超低出生体重児の動脈管がインダシンでは閉じず心臓血管外科に頼んで結紮術を行うってのはそう稀な話でもなし、大学病院なら完全大血管転位とか三尖弁閉鎖とかの赤ちゃんも入院して来られるのでしょうし、心臓血管外科がこの為体ではどうするんだよと考えたら、新生児科としても隣科の内部事情だと澄ましては居られません。
私の目にはabsinth先生の置かれた状況の問題点はかなり明白なように思います。なにをどう改善したらいいかも、はっきり、分かり切ったことだと断言させて頂きたいところです。傍目八目もしょせん八目に過ぎないのですが、その八目の読みを述べ立てさせて頂きたいと思います。その通りに打てるかどうか、その現実的な可能性云々はさておいても。
足りないんじゃない。多すぎるのです。些事が。切り捨てるべき事柄が。
まず何故に外の病院へ応援に行くんだと不思議です。応援に行くって事は、つまりは、行ける範囲に心臓血管外科の手術ができる病院があるってことですか?ここにまず矛盾を感じます。
それはつまり中途半端な規模の心臓血管外科が近所に乱立しすぎてるってことじゃないでしょうか。片端から潰して医者を引き揚げてくるべきです。たとえばの話、absinth先生の施設から車で日帰りの距離に、病床10床常勤1名で隔週1回だけの手術には非常勤の応援が要る心臓血管外科なんかがあったとしたら、はっきりと無駄です。定食屋と称しつつ飯とみそ汁以外の料理が出せない食堂みたいに無駄です。その常勤一人が大学にいれば並列の手術をもう一列増やせるってことはないのでしょうか。誰かがもう1時間余計に休めるってことはないのでしょうか。
半端な心臓血管外科を潰せというのは、地域医療を切り捨てよという主張ではありません。地域に広く浅く展開するのが地域医療だという御意見の方は、極端な例として、医局みんなで一人一軒ずつ診療所を開業した状態を考えてみられたらよいのです。手術の一つもそれではままならないでしょう。現実にはスケールメリットというものがどうしようもなく存在していて、たとえばの話、病床20床に常勤4人の施設が2つあるよりは40床8人の施設が1つのほうがこなせる仕事の量は遙かに多いのです(教育のレベルも高くなるというのは本学心臓血管外科米田教授の主張でありabsinth先生もご存じの如くです)。現在の医療経済においては、地域医療の充実が急務であるが故にこそ、半端な施設に存続を許す余地はありません。医者一人の診療所と無限に巨大な病院との間のどこかに、その地域での規模の適正値があるはずなのですが、おそらくabsinth先生がご活躍の地域に適正な規模はabsinth先生ご勤務の大学病院よりも大きく、施設の適性数は地域に現存する数よりも少ないのではないでしょうか。

スケールメリットに関して言えば、それは病院に限らず、例えば障害者の共同作業所や重度心身障害児者の入所施設など収入が利用者数に比例する施設にはほぼ普遍的に存在する。卑近なところでは僕らのNICUもまた、ちっこいNICUが林立するよりは大きいセンターが一つのほうが、その地域の周産期医療の成績も新生児科医の「経験値」も格段によくなるものなのだ。

外来も止めるべきです。3時間の睡眠も確保できない心臓外科医が外来で何をしてるんですか。そもそも循環器の患者さんの外来フォローは循環器内科がやる仕事じゃないでしょうかと、内科系の端くれとしては思えてなりません。病棟仕事も同じです。手術室で集中治療科に引き渡すか、術後管理が終わりしだい循環器内科に差し戻すか、どちらかなんじゃないでしょうか。心臓血管外科医が術後管理を過ぎて退院までの慢性期管理や外来フォローまでやるってのは、産科医が超低出生体重児の発達健診に手を出してくる様な(そんな産科医は居ないですけどさ)状況に一種通じるものがないでしょうか。足りない手はその手でしかできない仕事に集中するべきだと思います。
そもそもね、なんでabsinth先生が胃カメラなんてやってるんですか?こればっかりはabsinth先生にもちょっと呆れたなあ。緊急手術か胃カメラか、どっちかを止める手配から、まずは取りかかられるべきかと愚考致します。それと、雇いたくても枠がないという問題に限っては「社会と繋がる」問題じゃないような気もします。もはや独立行政法人の時代です。雇用の問題は院内で完結するべき問題じゃないかと思うのですが。人件費ぶんを稼げば枠なんか幾らでも追加できるじゃないかと思うのは、私が余計なしがらみの介在する余地もないほどちっぽけな私立病院の医師だからですか?

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