吸引は意外に苦しい

超低出生体重児の気管内吸引(痰の除去)につかう吸引カテーテルを、試しに口にくわえてみた。ヒュッ、と口の中から空気が吸い出される。胸の中からまで空気が吸い出されるような感じ。意外に苦しいものだ。手早くやるようにしないと赤ちゃんもあれは辛いだろうと思う。
口にくわえてサイドホールを開いたり閉じたりしてみる。手元のサイドホールを閉じるとカテ先に吸引圧がかかる。指を閉じるタイミングと口の中に陰圧がかかるタイミングの差をはかってみる。このタイムラグを意識したほうが効率よく優しく吸引ができるだろうと思う。何事も知らないよりはまし。

「靖国問題の精神分析」岸田秀×三浦雅士 新書館

東京からの帰りの新幹線で読み始めて本日読了。
精神分析の人が「自閉」という語を使うと反射的に腹が立つので、私は岸田という人にはあまり好感が持てなかった。しかし三浦雅士さんの語り口が面白くて読み終えてしまった。どうも、この人は基本的に岸田さんを尊敬しているというスタンスで、岸田さんの「岸田理論」を用いて岸田さんの最近の言動(小泉首相の靖国参拝に賛成して居られる)を批判しているらしい。三浦さんの「岸田理論」の読みが岸田さん本人にも否定できないくらい正確で、しかしその読みと応用が正しいと言ってしまうと最近の言動を自ら否定することになるので、岸田さんはかなり困って居られる。岸田さんが「いやそんなことはないでしょう」と言いかけると、三浦さんが「いや岸田さんの「○○」を読んでそう思ったんですと切り返すことが繰り返される。相手を尊敬するスタンスを崩さず相手の言説を用いて相手を論破してしまう。そういう議論の仕方が読んでいて勉強になった。
国家もまた個人と同じように精神分析で語ってしまえるってのが岸田理論らしいんだけれども、

岸田 三浦さんの比喩はちょっと過激すぎますよ。そのような譬え話が日中関係に当てはまるとは思えません。まるで日本兵全員が罪もない中国娘を強姦殺人したみたいじゃないですか。
三浦 国家を個人として描こうとするとそうなってしまうんですよ。

こんな一節を読むと三浦さんはご本人のお言葉ほどに「岸田理論」を尊敬して居られるんだろうかとも思えてくる。
岸田さんは繰り返し、人間は本能が壊れているが動物は無用の殺しをしないと仰る。そりゃあ勝手な思いこみだ。例えば竹田津実先生が書かれた「子ぎつねヘレンがのこしたもの」一冊読んでみるとよい。親ギツネに虐待されて重度の障害を負った子ギツネの話である。児童虐待はキツネにもポピュラーなことなのだと竹田津先生は仰る。キツネもまた本能が壊れてるんだろうか。あるいは人格形成に関してブランクスレート的な考え方をして居られるようにも読めたけど、スティーブン・ビンカーなんて人らの説やらプレヒテル先生らの発達神経学やらをどうご評価になってるのだろう。でもこれは私の誤読だろうか・・・だって人間は本能が壊れてるという言説と人格は生後の体験で作られるという言説は矛盾するようにも思えるし。
一神教云々と語って居られるところも、それって「アンチ一神教」としてそれ自体が一神教と化した言説じゃあないですかと突っ込んで見たくなるんだけれども、岸田さんには「一神教vs多神教」という著書もあるらしいのでそちらをまず読んでから。