誰が聴いてもあれは「詐欺師の声」だったのか・・・

内田樹の研究室: 投資家と大衆社会
ライブドアの株価が急激に低くなった。それをきっかけに株価全体が一時的に落ち込んだそうだ。
この暴落を機に内田先生が上記記事を書かれた。その中で、内田先生はご友人の「金の話しかしない退屈な」人物という堀江貴文評を引用し、さらに「誰が聴いてもあれは『詐欺師の声』」との御自説を披露しておられる。彼の事業に投資した投資家たちはいったい何を考えてそんな無謀なことをしたのかいささか不可解なのだそうである。
いかに一時の栄華を誇った人であれ、現時点で窮地に立たされた人の人格をこのように誹謗するのは感心しない。内田先生のなさるべきこととは到底思えない。数日前のライブドア株が最高値であった時点で堀江氏の声を「詐欺師の声」と喝破し、ライブドアへの投資を控えるようにと警鐘を鳴らしておられたのなら、先生の炯眼を称えたいとも思う。だが、いくら「ヒルズ族」の梟雄とはいえ、凋落の明確になったこの時点でいくら彼の人格を腐したところで、それは警鐘とは言わない。警鐘は事ある前に鳴らしてこその警鐘である。後知恵は猿知恵に過ぎない。
堀江氏が人格攻撃を受ける謂われはない。彼は金を失っただけだ。この窮地にあっても堀江氏がその人格を疑われるべき行為をしたとは報じられていない。NICUに籠もって世事に疎い私よりも内田先生のほうが多くの情報に接しておられるのかも知れないが、それなら先生には「この局面にあって堀江はこれこれの愚行を重ね馬脚を現した愚か者だ」と論証できるような具体的な根拠をあげていただきたいと思う。
先生は常々、拝金的な世の風潮を批判して、金で買えない大事なものがたくさんあると繰り返し仰っておられる。それほどのものでしかない「金」を失ったからといって、ただそれだけでどうして人格攻撃に走られるのか。それとも内田先生からの尊敬は金で買えるのか?

専門医と呼んで頂けるために

日本周産期新生児医学会専門医の研修年次報告書を提出する。昨年度分が未提出だった。私と同じく報告書をほったらかしていた人が全国的に多かったらしく、昨年度分は今年の3月までに出せば咎めないよという通達が回っている。
こうして書くと随分だらしないお話のように聞こえるが、しかし「1年間に気管内挿管を何例しましたか?」などと真顔で聞かれたら脱力の一つもしようというものだ。そんな日常手技をいちいち数えて日記に付けてる人なんているんだろうか。仕方ないので退院統計を眺めつつ記憶の底からひねり出して、何とか思い出そうとする。12件までカウントしたところで放り出してしまった。お陰で年間に気管内挿管を12件しかしませんでしたなんて、情けない研修報告書が出来上がってしまった。
専門医制度などなかった時分から、自分の専門は新生児だと思い定めて勉強してきた俊英は全国に数多いだろうし、私のように他に能があるわけでなし偶々ご縁を頂いた新生児領域なりとも何とか人並みにというささやかな人らもまたあるだろう。俊英たちはもちろん、ささやかな私などもまた、なんぼ何でも「平仮名読めますか?」みたいなプリミティブな質問をされたら何だか冷めてしまうものではないかな。私など能力がささやかな割に自尊心は奇妙に高いからなおさらだが。
今さら専門医なんて呼んで頂かなくてもいいよと無視しておれればそれも良いのだが、あんまり長いこと専門医試験の合格者が出なかったらうちの病院の「研修指定施設」の認定が取り消されてしまうので勤務先に迷惑がかかる。ついでに大学の医局にも。なんだか、新しくできたばかりの義務教育制度に付き合うためにいい年して小学校に通う羽目になった大人とでもいうところだ。

ネットを離れて年末年始

何とはなく更新をさぼっていた。特に忙しかったわけでもなく(確かに超低出生体重児の入院はあったが、振り返れば至極順調な子で、この子のせいで忙しいと申しては罰が当たる)、理由はないがネットに触る気分にならなかったと言うしかない年末年始であった。メールのチェックも数日毎に間延びしていたが、覗くたびにスパムメールばっかりだったので、嫌気が尚更増した。
今冬は年が改まらない内からインフルエンザの患者さんが出始めたので、年末年始の休暇は返上する覚悟をしていたのだが、蓋を開けてみると時間外救急の患者さんは意外に少なかった。昨冬までは、発熱したら即刻タミフルを入手しなければならぬと、世間全体が血眼になっていた感があった。今年は副作用の報道があったせいか、あるいはタミフルで大もうけしてるのは実はラムズフェルドなんだぜという裏話のせいか、狂奔が程良く冷えたような気がする。
特に初当直の夜は深夜帯の小児科受診が1名だけで、割とよく寝られた。その明けの日に今年最初の超低出生体重児の緊急帝王切開立ち会いをすることになったのが、巡り合わせが良いというのか悪いというのか。こういう時にも私しか居ないというのが当院の層の薄さを物語る。認可6床の民間NICUなんて全国どこでもこんなものなのかもしれないけれど。今年から新築の病棟に引っ越したら認可9床になる予定で、認可病床数だけなら京都で最大のNICUになる。それなりに大学でも考えてくれるんじゃないかなとは思う。増員なんて実現するかどうか半信半疑だけれど、でも夢は必要だ。正月なんだし。