崩壊は突然に訪れる

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一 / 草思社
ISBN : 4794214642
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一 / 草思社
ISBN : 4794214650
福島県で逮捕・起訴された産科医師については内科でも大きな話題になっている由、医局で内科の医師から聞いた。普段は消化器内科で内視鏡やってる先生ですら大きな関心を持っておられる模様。たとえ生涯に一度遭遇するかしないかの稀な疾患でも、結果が悪ければ刑事訴追されるという前例ができてしまったのだから、今回の一件は、どの医師にとっても他人事でない。
このまま日本の医療は崩壊していくんじゃないかという危惧を多くの医師が表明している。私もその危惧を共有している。あたかも本書「文明崩壊」で描写されたイースター島の文明のように日本の医療は崩壊して行くように思える。イースター島の人びとが貴重な樹木を次々と切り倒していったように、かつては豊かに見えた医療資源が次々と刈り取られている。そして気がつけば島中に灌木以上の樹木はなくなり、木材を使い尽くして漁労用のカヌーが建造できなくなった。そしてイースター島民は作りかけのモアイも放り出して食料の争奪戦を繰り広げることになった。文明崩壊にお定まりの人肉食も経て、島の人口は激減した。
時を経てヨーロッパの船がイースター島に接近した時、住民は粗末なカヌーで船に漕ぎ寄せ、口々に「木を」と所望したと伝えられる。
医師でない皆様にはあまりこの危機感が共有されているように感じられない。でも本書によると文明の崩壊は突如として訪れるものらしい。イースター島しかり、ノルウェー領グリーンランドしかり、マヤ文明しかり。こんな劇的な崩壊が忍び寄ってくるのに、渦中の人びとは本当に気付いてなかったのか、気付いてて何の対策も打たなかったのかと不思議になるほどに。島中に茂っていた木々が刻々切り倒されていくイースター島で、このまま木が減ったらどうなるかと人びとは考えなかったのか。最後の一本の木を切り倒した人間の胸中に、何か湧き上がるものはなかったのか。しゃあねえや俺が気張って木が生えるもんでなしと、そう呟くことで彼は気が済んだのだろうか。彼もまたその後は飢えることになるのに。
多分、崩壊間際の文明の渦中にあった人びとが崩壊の予兆に気付いてなかったのかどうかについては、1944年当時の日本の状況も考察の一助になるんじゃないかと思う。って、勝手な想像でしかないんだけど、軍の内部に居れば、問答無用でこれはもうダメだと多くの人が感じていた事だろう。例えば私ら医者が医療界内部にあってもうダメだと考えているようにさ。市民も、身のまわりを見渡せば、生活がますます窮乏してゆくことに、出征してゆく兵士が老年兵や少年兵ばかりになってゆくことに、空襲されたと噂される町がつぎつぎ増えていくことに、何らかの徴候を薄々と感じ取っていただろう。ご近所の病院でまた産科が閉鎖されたとのニュースを聞いてる貴方のように。しかし翌年8月15日の玉音放送を、そういう形で呆気なく突然の終わりが来ることを、誰か予見していただろうかと思う。私も貴方も、崩壊がどのようにやってくるか想像できてない。でも、それは決して、崩壊が明日起こらないと保証するものではない。
折しも、今回の診療報酬改訂で病院の収益がどうなるかという説明を、医事課職員から聞けた。何でもうちの病院の2月分で試算してみると2.8%の減収だそうだ。それでもまだ他所よりはマシなんだと。小児科は増額だなんて呑気なことは言ってられない。赤字の幅が減っただけだ。道楽息子が手すさびに描いた書画の価格が少々上がったとて、傾いた家業を立て直すには至らんものだ。普通はね。

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