NICU移転当日

こどもたちを動かす日だった。幸いにも挿管中の子がいなかったので移転も呆気なく終わった。ここしばらくは新規の重症入院を断っていたから、挿管中の子がいないのはある程度は予想のうちで、幸いにも、ってのは白々しいかもしれんが。
調乳設備やら人工呼吸器やらといったクリティカルな物品も無事移送できた。むしろ厄介なのは人心のほうで、本件本物品について僕は私は聞いてない云々の紛糾がこの数日あれこれとあった。新しいNICUが出来上がったとて、人心一新というわけにはいかん様子だ。これから頑張るぞという新鮮な気持ちが萎えかけた。しかし、一方で、部下の起こした紛糾に関して、下げる言われもない頭を下げて、宥めようと奮闘する人もあり、うちもまだ捨てたものではないと思い直すこともあった。こういう場面で俺が悪かったと頭を下げる人にこそ本当の責任感があるってものであって、聞いてないと怒る人は、所詮、自己評価が高すぎるか、あるいは「知っておくべきことを知らなかった」という怠慢について反省が足りないか、いずれにしても信頼とか責任とかいう尊い概念からかなり遠隔な場所にある人には違いない。
むろん私とて、うんざりするだけではなくて、自らそういう紛糾を納めにかかる態度を示さなければならなかったのだろうけれども。言い訳させていただけば、今日は再び喘息が悪化していた。本日のSpO2は95%ないし97%。ちょこっと低め程度。でも怠いので座っていることが多かった。役にたたん奴だという白い眼の視線を感じなくもなかった。こういう非日常の大イベントに気働きするなんて、いまさら私に期待するスタッフもないだろうと開き直ってはいた。ただまあ今後は真面目にステロイド吸入してピークフローのひとつも記録せねばならんかとは思った。
NICU移転に続いて急性期病棟の移転。外科の先生が仕切って、お年寄りや年長児たちを動かす。車椅子で移動するお年寄りには医師が一人ずつついて行く。その様子を眺めていて、他科の諸先生について色々と拝察することが多かった。新しく赴任してこられた内科の先生が、昨日の移転前準備の日から率先して働いておられたりして、意外に頼りがいのある人なのかもしれんなと刮目させられたり、あるいは患者さんののった車椅子を片手で受け取ろうとする女医さんが居たりして、この人は余程の腕力自慢なのか、それともいい年して車椅子ひとつ動かしたこともないのか、どっちだろうと小馬鹿にしてみたり。むろんその諸先生には、私は若い癖に出足の遅い奴だという印象を与えたことだろうと思う。
最後に旧NICUにもどって、ちょっとしみじみしてしまった。この辺にはこの子がいたなあとか色々と思い出すことがあった。

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