ヒューザー・小嶋社長ら詐欺容疑で逮捕 耐震偽装事件
2006年05月17日20時20分
耐震強度偽装事件で、警視庁と千葉、神奈川県警の捜査本部は17日、強度不足と知りながらマンションを販売したとする詐欺容疑で、マンション販売会社「ヒューザー」(東京都大田区、破産手続き中)社長の小嶋進容疑者(52)を逮捕した。同様の事情を認識しながら建設したホテルの工事代金を受け取ったとして、同容疑で「木村建設」(熊本県八代市、同)社長の木村盛好(74)、元専務の森下三男(51)の両容疑者を再逮捕した。捜査は欠陥建築物に対する刑事責任追及の核心に入った。3人は容疑を否認しているという。
小嶋氏にせよ木村氏にせよ、偽装を知らなかったってのは案外と本当のことなんじゃないだろうかと私には思える。だから免罪しろとかいう価値判断を絡めるわけではない。知ってたか知らなかったかという事実関係を単純に問うた場合、案外と、本当に彼らは知らなかったんじゃないかと。
たぶんに彼らは、根性論で部下を締め上げただけではないかと思う(だけって言っても、免責されるわけではないと再度言っておく)。たたき上げで会社を興して上り詰めた云々の自負を、お二人とも各々強烈にお持ちなのだろうと推察する。そこから「根性据えたらカラスも白い」みたいな無根拠な精神論に飛躍してしまって、建設のコストを際限なく削ろうとした「だけ」なんじゃないかと思える。
無理だと上申する部下は根性無しと罵倒し(鉄拳さえ飛んだかも知れぬ)、逆らえぬ立場の面々がついに要求通りの数字を出してきたら、「今までのお前たちには根性が足りなかったのだ」「俺が言うとおり根性据えたら不可能は無いじゃないか」云々とご満悦だったのではないか。得意になって「経済設計」などという造語までしてしまったんじゃないか。
その設計がルールに則ったものかどうかと気遣う発想は、たぶん、彼らの思考には縁遠いものだったのだろう。それに、ルール違反の設計を出してしまった下々の面々が、いまさらそんな上司に「実はこれルール無視でして」などと上申する訳も無いし。
そんなこんなで、偽装が発覚した時に彼らは確かに、自分たちこそ裏切られたのだという思いに駆られたのだと思う。足元を掬われたような気分なのだろう。自分こそが被害者だと小嶋氏は語っていると伝え聞くが、その台詞は今後の法廷論争の布石をしているわけではなく、案外と本心なんだろうなと思う。さきの戦争に負けた後の旧軍上層部の面々も、あんな感じだったんじゃなかろうか。
上層部が論理を弁えぬ精神論をもって実現不可能なスペックを要求し、技術的に不可能だという当然の反論を強権で抑え、怯えた部下は技術者の倫理を捨てて単に数字あわせの空虚な設計をする、その結果としてその製品を運用する現場が大迷惑する、挙げ句にぼろが出て総倒れする。「旧日本軍弱小列伝」で語られた、旧軍の戦車や零戦の開発時に起きた悲喜劇が、今回もまた繰り返されたというように、私には見える。
結局彼らは、ずる賢かったんじゃなくて、単に無知無思慮なわりに強欲の度が過ぎただけだったんだろうと思う。罪深いことには変わりないんだけれどもね。彼らが思ってたほどには世の中は精神論で動くもんじゃなく、さらに言えば、自分で思ってたほどには彼らは賢くなかったってことだろう。自分の無知に責任をとるかどうか、それは本人の倫理観の上品さ次第なんだろうけど。
それにしても、いま日本では医療費を削減するのに政府与党が躍起になってるけど、「経済医療」なんじゃないだろうねと思う。根性据えたら医療費は安くなるとか思ってないだろうね。「経済医療」だったとして、だ、小嶋氏らみたいな、責任とって詰め腹を切る立場の人は居るのかね。「経済医療」にはたぶん私ら臨床の医師も詰め腹切ることになるんだろうけどさ、それは建築士の姉葉氏的な立場でだよ。「経済医療」の小嶋氏の立場で、腹を切るのは誰かね。誰も居そうにないと思うのは、私の僻みかね?