「誤診列島」と三枚摺り

誤診列島―ニッポンの医師はなぜミスを犯すのか
中野 次郎 / 集英社
ISBN : 4087474275
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医療問題を扱っておられる弁護士さんがブログで激賞しておられたので一読した。この弁護士さんは文体に関して私よりも寛容であられるようだというのが第1印象。語り口は読むに耐えない。真面目な話題は真面目に話すものだと思う。編集者は何をしてたんだろう。語り口が全てだと喝破した構造主義者は誰だったか。でもまあ著者の人格を腐したところでその著書の誤謬を指摘したことにはならない。上品な私はこの問題をこれ以上は追求しない。
本書を通じて、「ニッポンではこうだと聞く。じっさい私が教えた医学生はこうだった。翻ってアメリカではこういう制度になっている。じっさい私が若い頃はこうだった。(だからアメリカの医療はすばらしい。ニッポンはダメだ)」という論調であった。じっさい、この人が伝聞された「ニッポン」と呼ばれる地域の医療情勢は悲惨だ。いったいこのニッポンという地域は地球の何処にあるんだろう。近寄りたくないものだ。私は日本国で医師をしてて本当に良かった。でもアメリカでも、そんな素晴らしい医療を行えてる国から漏れ伝わる悲惨な状況ってのはどうなのよと思うけど。
むろん、本書のニッポン医療批判を、われわれ日本国の医師も、他山の石として参考にするべき点は多々ある。特に、アメリカの開業医は病院に患者を入院させた後も自分が主治医として治療を続行するというが、この制度が医療の水準を維持するのに一役買っているという。この点が最も興味深かった。病院もどの開業医からでも引き受けるというのではなく、ある一定水準の診療能力を持った開業医と認めない限り入院特権を与えない。どこの病院に入院特権を持ってるってのが開業医のステータスなんだそうだ。
リスクマネージメントな面もある。病院としては、ヤブな開業医のヘボい外来診療のツケを払わされてはたまらない。開業医もまた、自分の患者を入院させた病院で事故を起こされては堪らない。互いに外部の眼で監視することになる。実際に何かあったら、その責任の所在を明らかにしないと自分に火の粉が降り掛かるのだし。
ようは「三枚摺り」なんだよな、これ。完璧な平面を作る方法ってやつ。平面を作るには素材をすり合わせて凹凸を取り除けばよいのだが、二枚ですり合わせると片方が凹・他方が凸の曲面になるかもしれない。でも素材を3枚用意して、どの二枚を選択してすり合わせてもきれいにすり合うように加工したら、そのすり合わされた平面は完全な平面になる。