ふだん拝読しているブログ「新小児科医のつぶやき」経由で以下の新聞記事を読んだ。
出生体重が1500グラム以下の未熟児「極低出生体重児」の死亡率に、専門病院の間で、0~30%まで差があることが、厚生労働省研究班(分担研究者・楠田聡東京女子医大教授)の調査で分かった。平均死亡率は11%で欧米より低かったが、脳の出血や肺障害を起こす率も差が大きく、病院による治療法の違いで差が出た可能性がある。班は死亡率の低い病院の治療を普及させて、全国的な死亡率低下を目指す。
次の段落を読むと、これは「総合周産期母子医療センター」の調査だそうだ。だものでちょっと他人事気分である。うちは総合じゃないし。だもんで、Yosyan先生よりはセンターに対してちょっと辛口。貧乏病院の僻みでね、年間何千万円から補助もらってるんだから成績評価の一発もやったっていいんじゃない?みたいな。
でも「死亡率が低い」と「優れた新生児医療をやってる」とはイコールじゃないんですよね。
例えば23週なんて超早産の子は消化管穿孔を起こすことがあるから、哺乳開始の時は腸管血流にかなり気を遣うんだけど、たとえ消化管穿孔をおこした極低出生体重児でも、当院では他施設に比べて死亡率が低いはずです。なぜって当院は小児外科がないから、そういう開腹して手術しないと救えないような子は他施設に転送ということになるので。不幸にしてその子が亡くなったとしても、「当院での死亡症例数」にはカウントされないことになります。
でも、当然ですが、転院を引き受けて下さった施設のことを「君ら消化管穿孔の死亡率が高いじゃないか」などと笑うようなマネは絶対できません。まして、「消化管穿孔でも赤ちゃんが亡くならない管理法を教えて」なんて言われても困ります。「消化管穿孔を起こさない管理」なら、ちょっと掴めてきたような気はしてますが、他人様に誇れるほどではないですし。
今回の記事で報じられたセンター間の格差についても、同様の事情があるんじゃないかと思います。頼りにできる先のあるセンターなら、全てを引き受けなければならない状況におかれた孤立無援のセンターとは、成績がちょっとは違ってくるかも知れません。たとえ総合周産期でも、小児外科に限れば近在の「地域周産期」扱いの大学病院のほうが強いとか、心臓外科なら循環器病センターだとか、いろいろ地域の事情による搬送先があったりするものです。実際、先のリンク先で総合周産期云々施設の内訳をごらんいただいたら、意外に大学病院が入っていません。少人数だけど管理が猛烈に難しい(従って死亡率も高い)一群の赤ちゃんを大学が引き受けて(ほんらい大学病院ってそういう病院ですよね)、総合周産期施設は大多数の平均的難度の赤ちゃんをスケールメリットに物を言わせてお世話している、みたいな状況が現実にあり得ます。京都なんてそんな要素が強いんじゃないかな。
先に述べたように私は貧乏な中規模私立病院の人間ですから、8桁規模の補助金を貰ってると伝え聞く総合周産期施設には僻みがあるんで、「総合名乗って銭もらうんなら言い訳めいたこと言わんと実績をだしてみろよ」みたいなことも思ったりしてるわけですが。しかし逆に、蟷螂の斧めいた矜持ではあれ、赤ちゃんを救ってるのは我々草の根の地域周産期だとも思ってるわけで、そういう僻みは潔くないし賢くもないと思ってます。
端的に新生児医療のレベルを比較しようと思ったら、施設間の成績比較よりも、むしろ、地域ごとの成績比較を参考にするべきかと思います。要は、俺たちも数に入れろよって言ってるんですけどね。当該の都道府県で何人の極低出生体重児が生まれてて、どれくらい生き延びてて、そのどれくらいが障害なしなのか。上手くいってる地域では各々の医療施設がどのような配置になっててどのような連携をしているのか。全国を相手にしての医療政策的なお話をするなら、そういうマクロの視点が欲しいと思います。
って、どの口が誰に説教してるんだか。楠田先生の前任は大阪の府立母子だし。大阪と言えば新生児医療の地域化がむちゃくちゃ進歩した土地ですし。医療施設の網の目が、まるでGoogleのサーバ群みたいなネットワークをつくってますし。そのネットワークの最重要のノードを束ねておられた方ですから、そんなことはお見通しだとも思います。