大和って結局何隻沈めたの?

「男たちの大和」の興行が京都では二番館まで終わったらしくやれやれと思っている。新聞の映画案内にこの題名を見るたび、何とはなく見たいような見てはいけないような気がして落ち着かなかった。賛同して観ようが批判的に観ようが、入場料を払ってしまえば興行成績の一部としてポジティブにカウントされてしまう。それは不本意なのでこの映画は観ないことにしていた。
私も昔はプラモデルの赤城とか武蔵とか紫電改とか作ってた口である。機械は好きだ。巨大な機械は大好きだ。検査機器をメンテする姿を見られて「お前は機械に赤ちゃん相手と同質の愛情を注いでいる」と同級生の医師に冷やかされたほどだ。それは「男たちの大和」を制作された方々と同様である。特別あつらえの大和が大画面を勇猛に進む姿は一見の価値があったんだろうなと思う。当時プラモデルにつぎ込んだ金額よりも安くで観れたわけだし。画像的には、観たい映画だった。
ただ先の大戦で犠牲になった方々への礼儀として、大和が筆頭にでるってのはどうなんだろうとは思った。犠牲を追悼するなら、「男たちのガダルカナル」や「男たちのインパール」を差し置いて「男たちの大和」が出来上がってしまったのには違和感を覚える。
むろん、大和の面々が喰うものは喰えて武器弾薬も持ってたからって、ろくな補給もないままジャングルに逐次投入されて飢餓とマラリアで殺された飢島の人々に、犠牲として優れているとか劣るとか言う話はない。そんなこと言うほど増長はしたくないものだと思う。
とはいえ、やっぱり、「男たちのガダルカナル」じゃなくて「男たちの大和」なのは「絵として美しい」からだろうという邪推を否定しがたい。ガダルカナルには大和の巨躯に匹敵するような機械ネタがないというばかりではない。大和のガンルームではそれなりの議論もできただろうが、密林で自分が飢え死にしつつある意味を考えて、何か結論めいたものが出るわけがない。カズシゲ氏ですら口にすれば決まるような名文句など残ってはいまい。
ガダルカナル戦を始め、英霊と呼ばれる方々の多くは、拝見して鼓舞されるというよりは、辛くて目を背けたくなるような死を余儀なくされたのではなかったか。「シン・レッド・ライン」はガダルカナルが舞台だったと聞くが、あの映画に猿なみの惨めな姿で登場する日本兵をこそ、日本人は追悼しなければならんのじゃないか。彼らの辛さを直視し記憶することが追悼だろうよと思う。

立つことの出来る人間は、寿命30日間
身体を起こして座れる人間は、3週間
寝たきり起きられない人間は、1週間
寝たまま小便をするものは、3日間
もの言わなくなったものは、2日間
またたきしなくなったものは、明日

そんな絶望の中で亡くなった方々を追悼するためになら、靖国参拝もぜひ行われるべきだと思うが。でもなんだか、そういう「画像的に醜い」死に方をした兵士たちのことを、コイズミさんたち靖国にこだわる方々が念頭に置いておられるようには、なかなか思えない。英霊について、いかにも自発的に「国のために生命を捧げた」かに仰るが、国のために死ぬのが厭とは言わんが鉄砲玉もなくこんな密林に放り出されて飢え死にするんが国のためかいなと、英霊と呼ばれた方々は仰るのではないかと思う。
ついでに申しあげるなら、勇猛果敢な戦果を讃えるなら、「男たちの雪風」なんじゃないかと思う。大和の戦果って、輸送鑑としては大活躍だったらしいけど、戦艦としては駆逐艦1隻撃沈だけじゃなかったかな。あの主砲は宇宙戦艦に改造されるまでは一隻の敵艦も沈めてないらしい。道理で波動砲が必要なわけだとは納得したけれど、敢えてそんな大和を持ってくるってのは、やっぱり慰霊というよりメカフェチが動機で作った映画でしょと勘ぐらざるを得ない。あるいはメカフェチでないとすればホテルフェチか? 次は「男たちのプリンスホテル」かも知れませんね。
そもそも「男たちの」という枕詞も何だか気恥ずかしい。「男の隠れ家」「男の一人旅」「男の手料理」「男の休日」・・・森羅万象、「男の」という枕詞をつけてみるとたいてい何でも恥ずかしくなってしまう。娘が一頃「ずっこけ」とかいうシリーズものを読んでたけど、対象への尊敬度において「男の」と「ずっこけ」は同列くらいなような気がする。そういえば「男塾」だってギャグまんがだった初期のほうが深くて面白かったし。あの映画は大和を小馬鹿にして楽しむ映画だったのかも知れない。撮影後のセットを見世物に払い下げたりしてるし。

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