周産期ネットワークとは

緊急母体搬送に関して、産科もNICUも空床がある病院でなければ引き受け不可能との声も散見される。確かにそれが理想と言えば理想だが、しかし現実にこの忙しい業界で、産科もNICUもそろって空床のある病院なんて、そうそうあるものではない。
まず産科空床のある施設へ母を送る、その施設に現地集合でNICUから搬送チームを送り、赤ちゃんを蘇生して引き取って帰る。赤ちゃんの予後はNICUの前に分娩室や手術室でも大きく左右されるものだから、NICUに空きのない病院が母体搬送だけは受けるってのも、決して空手形ではない。新生児側としては、それは「あり」だ。少なくとも、搬送先を探して時間を空費されるよりはよほどマシだ。
むろん空床のないNICUには、自院の分娩室に蘇生チームを送り込む余裕すら無いことが多い。空床ありのNICUから搬送チームを送り、彼らが分娩に立ち会い、蘇生し安定化して連れ帰る。そのほうが何かと後あとの集中治療にも都合がよかったりする。過去に我々の搬送チームがどこの大病院の手術室まで入り込んでいったか、語り草にすれば面白いんだろうけど、信義に欠けるような気もして公表は止めておく。あるいは、産科医の一人二人も連れて行けば、母体を動かさずにその場で緊急帝王切開やって赤ちゃんを連れ帰るってことさえ可能ではないかとさえ思う。さすがに実際はそこまでやったことはないが。
例えばそうして私ら私立病院の人間が、例えばどこそか市立病院(京都市立病院とは限りませんよ)の分娩室で新生児蘇生をやったとして、その蘇生にかかる医療費はどこの病院が請求するんだとか(俺らはただ働きなのか?)、結果には誰が責任保つんだとか(事故の時は市立病院の院長はどう出るんだ?)、救急車をかっ飛ばして迎えに出向くときに赤信号に突っ込んで側面衝突でもされたら俺の治療費はうちの病院が労災申請してくれるのかとか、色々と調整することがたくさんある。そういう面倒くさい調整の一つ一つを解きほぐしていくのが、周産期ネットワーク構築の本質ではないかと思う。
元締め仕事も重要だ。いざ緊急だって時に、君のところは産科の空床が出せるのね、君のところは人工呼吸器が空いてるね、君のところの新生児搬送車はいま空いてるね、と次々と出すものを出させて、じゃあ君はここ、君はそこ、と割り当てていく仕事。各都道府県に一個ずつの総合周産期センターの役目なのかもしれんけど、そういう三次センターの当直医ってじつは青二才のことが多いから、説得力があんまりだったりする。行政の皆様にはなかなか理解できないことなんだけど、箱じゃなくて人の顔と声で動く仕事って世の中には多いんだ。そういう元締めの居るネットワークの構築って、行政に頼んでやってもらう事じゃないような気がする。
周産期ネットワークの整備と言って、各々の空床数を公示しあうだけ、電話番号を知らせあうだけって位しか想像つかないのはつまらない話で。一昔前のFAX自動送信機能を使っての情報交換時代ならともかくも、今じゃあ別に行政に頼らなくてもミクとかウィキとかブログとか使えば空床情報のリアルタイム公示くらいなら簡単にできるんで。行政には、むしろ、そういう情報交換に関しては、「いかがなものか」の一言をいわず飲み込めという一点しか、要望することはありはしないんで。(銭を出せ、という永遠の要望は別としてもね)。
無論、行政の皆様にやって頂く仕事には、私なんぞが想像もつかないような深遠な仕事もあるのだろうとは思います。彼らの名誉のためにこれは是非付記したい。たぶん、そういう仕事の一端を拝見しただけで、私など怖気を震うのでしょうけれども。

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