さかなにはきをつけろ

タンク機関車トーマスが、同僚のタンク機関車ダックに忠告するエピソードがある。ダックは魚を積んだ貨物列車の後押しをすることになったのである。トーマスは、ダックに、魚にはくれぐれも気をつけろと言う。
「注意その一。もしも魚がボイラーに詰まったら、絶対にトラブるぜ。」
トーマスはいちど、水が切れて立ち往生した時に、川から水を汲んだことがある。その時に、タンクに水といっしょに入り込んだ魚が、ボイラーに詰まって、内圧が急上昇し、あやうく爆発するところだった。その記憶が頭にこびりついて離れないのである。
給水塔が故障してたのが全ての始まりである。バケツの底に魚がいるのも見えないような泥水を機関車のタンクに入れていいのかよという問題もある。しかしトーマスの頭に染みついた教訓は「魚はとにかく要注意」というものだった。
ダックは大西部鉄道(映画「ナルニア国物語」で主人公の兄弟達が疎開の際に乗ってた鉄道だ。側面に誇らしげにGWRと書いてある)出身の、気さくだがしっかりものの機関車である。当然、このトーマスの短絡的な教訓噺を笑い飛ばすのだが、しかし事故は起こるのだ。
ダックは上り坂で、大型機関車の引く貨物列車を後から押していたのだが、夜の霧の中で貨物列車の最後尾を見失ってしまう。押しているつもりが貨物列車から一時的に離れてしまい、迷っているところへ、ダックの後押しがなくなって失速した貨物列車が逆送してきて正面衝突する。貨車が壊れ、積み荷の魚が散乱する。辺り一面に生臭いにおいが立ちこめる。
このダックの事故の原因は貨車のテールランプが脱落していたことだった。それはソドー島鉄道のトップであるトップハムハット卿自ら認めたことである。お前の責任じゃないと、ハット卿はダックを慰める。しかしダックはしょげ返って、「やっぱりトーマスの言うとおりでした。魚は要注意だったんですね」とぼやく。
このとぼけた味わいが英国流のユーモアなのであろう。しかし、我が身を振り返ると、このエピソードは洒落にならない。トーマスやダックのボケにツッコミを入れる資格があるかどうか。
我々は医療現場で、魚に気をつけていないだろうか。給水塔やテールランプの保守管理をしっかりやる替わりに、「とにかく魚には要注意なんだ」という教訓を言い伝えていないだろうか。「魚がボイラーに詰まる」心配をしていないだろうか。あるいは、我々自身でなくとも、どこか権力に比して相対的に知識が少ない方面から、声高に「サカナニハキヲツケロ」とお達しがでてはいないか。
人格者トップハムハット卿は、トーマスのボイラーに詰まった魚をフライにして上機嫌に喰ってしまい「うーん旨かった。しかしトーマス、もう魚釣りはいかんぞ」と諭す。医療現場での偉い人はハット卿みたいに融通無碍な対応ができるだろうか。先頭に立って「魚には気をつけろ!」と怒り狂い、トーマスを処罰にかかるんじゃないか。「プロの機関車のくせに魚をボイラーに詰めるようなミスをした」廉で。

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