戻す受精卵を「1個に」大阪府医師会委員会が提言

体外受精の際に子宮内に戻す受精卵を1個に制限するようにとの提言を、大阪府医師会の周産期医療委員会と多胎に関する検討小委員会がまとめた由、昨日(12月22日)の朝日新聞朝刊で報じられた。
筋の通った提言だと思う。真っ当な指摘である。あんまり真っ当すぎて、今までこういう基本的認識に関わる議論すらなされていなかったのかと、我が身や我が業界を振り返って呆れたほどである。「呆れた」とはいささか無責任な感もある表現ではあるが。とにもかくにも、綱渡り的に日々のNICU空床捻出に苦労している身としては、この提言が相応の効力をもって広く行き渡るようにと強く願うものである。
戻した受精卵がすべて着床に成功するとは限らないので、戻す受精卵の数が少なくなれば、妊娠に至らない可能性が高くなる。その「失敗」を嫌って、不妊治療関係者には、多くの受精卵を戻したいという心理が働くのであろうと推測する。
しかし、失敗というなら多胎妊娠も不妊治療の失敗だと思う。記事にあるような「死産率は5.8倍、早期新生児の死亡率も5.7倍になるほか、32週未満の早産の割合は14倍に上る」というハイリスク妊娠をつくっておいて何が成功であるものか。もしもそれが許容範囲なのなら、少なくとも今後は、複数の受精卵を戻す際には、母や児への危険がこれこれ上昇するが宜しいかと、きちんとしたインフォームドコンセントがとられることであろう。さらには、言うまでもないことだが、この周産期の危険を首尾良く切り抜けたとしても、双子や三つ子の育児負担は苛烈そのものである。生きて産めればそれで良しという訳にはいかないのだ。産んだ子どもは育てねばならないのだ。それを考慮に入れてそれでもなお、不妊治療を行う先生方は、多胎妊娠もまた不妊治療の成果だと言えるのだろうか。
ご家族にとっては、双子や三つ子も宝でありましょう。そのご家族の認識に異を唱えるものではありません。まあ、皮肉屋な私としては、「ときには悪魔」ってこともあるんじゃないか位は申すかも知れませんが。それを言うならうちの自閉症児も宝ではあります(むろん、時には悪魔です)。ただ、息子が自閉症になった由縁が分娩時にあったとしたら、その分娩は失敗であったと言わざるを得ません、と、そういう次元のお話です。
いささか不妊治療医に対して辛辣な言い方ではある。でも彼らが作るハイリスク妊娠の、リスクを引き受けるのは彼らの同輩である産科医、そして我々新生児科医である。(むろん第一義には産婦さんとこどもたちだが、それは別格として)。NICUはおろか分娩施設すら持たないビル診療所で多胎妊娠を連発する不妊治療医って、医師仲間への信義に欠けるんじゃないかと、常々思う。さらに言えば、そういう多胎があちこちのNICUを埋めてさえいなければ、先だっての奈良からの母体搬送も、5施設めくらいで搬送先が見つかったんじゃないか。私の邪推に過ぎないだろうか。
もうお産はやってられないから今後は不妊治療に専念します、って、なんか釈然としないんですがね。その子の分娩は誰が診るのよ。別件ですが。

戻す受精卵を「1個に」 大阪府医師会委員会が提言 体外受精、多胎防止へ
不妊治療の体外受精による双子や三つ子などの多胎妊娠を防ぐため、大阪府医師会の周産期医療委員会と多胎に関する検討小委員会は、1回に子宮に戻す受精卵の数を可能な限り1個に制限する提言をまとめた。多胎妊娠は早産や死産などのリスクが高まるため、日本産科婦人科学会は原則3個以内としているが、提言はさらに一歩進める内容。「可能な防止措置を行わず、多数の医療行為による多胎を発生させているのは医療の怠慢」と指摘し、同学会や日本医師会などに提言のガイドライン化を求めている。
同委員会などによると、多胎妊娠は子ども1人の単胎妊娠に比べ、妊娠中毒症などの発生率が高い。死産率は5.8倍、早期新生児の死亡率も5.7倍になるほか、32週未満の早産の割合は14倍に上る。総出生数に占める多胎妊娠の割合は、80年代以降伸び続け、04年で1.17%。三つ子の出生割合は20年前の3倍に近い。体外受精で複数の受精卵を子宮に戻すことが原因とされる。
多胎出産を避けるには、妊娠時に子宮内で胎児を死亡させて胎児の数を減らす「減数手術」もあるが、提言は、「胎児の生命を損なう処置」と指摘。「原因である多胎妊娠を予防することが絶対的に望まれる」とした。受精卵を1個に制限できない場合でも、40歳未満の患者については2個以下とするよう求めている。
早産では新生児集中治療室(NICU)のベッドが必要なことも多いが、一度に複数を確保するのが難しい場合が少なくないため、大阪の産科や小児科の医師らが対策を検討していた。大阪府医師会の斎田幸次・周産期医療担当理事は「多胎妊娠では新生児が脳性まひなどになる割合も高い。厳しい制限が必要だ」と話す。(石村裕輔)

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