今年のインフルエンザシーズン開始

日曜日の日当直。外来でインフルエンザの患者さんが突然増えた。
毎冬まだシーズンの始まる前は、今年は流行しないのかな等と甘っちょろいことを考える。特に今年は、第一号の患者さんを拝見してから「シーズン開始」まで長かった。今年こそはインフルエンザに煩わされずに済むんじゃないかと半ばまじめに期待したのだが、やはり甘かったようだ。
タミフルと異常行動の関連が報道されてから、処方前にはいちおう言及することにした。異常行動の確率がかなり少ないこともあって、大半の親御さんは処方をご希望になるが、なかにはそれならばと処方を断られる親御さんもある。今シーズンはタミフル無しを選択される親御さんがじわっと増えたような気もする。タミフルを飲むか飲まないかは、それぞれの子の年齢とか基礎体力とか基礎疾患の有無に基づいての個別の判断でいいように思う。大抵の子はアセトアミノフェンさえあれば乗り切れるようにも思える。一方で、たとえタミフルが症状改善を早めるのはたった1~2日であるとはいえ、看病する立場になればその1~2日がたいそう有り難いということもあろう。
日本は世界に冠たるタミフル大消費国である。それを非常識で国辱的な話のように言う向きもあるが、しかしインフルエンザの発症後48時間以内に受診できる医療環境があればこそ、しかもこの高価な薬を処方できる国民皆保険があってこその話なのだから、諸外国に比べて多いというだけで全面的に悪く言うのは、それこそ自虐的なものの見方だと思う(注)。特に受診の迅速さに関して言うならば、「発症後あまりに早期だと迅速検査に偽陰性が多くなる」ということが実用上の問題となりうるのは本邦特有の贅沢な悩みとさえ言えよう。このタミフル大消費の適切さを論じるのは、タミフルの投与が、患者さん1人1人に対して、あるいは集団に対して公衆衛生的に、どれほどの費用対効果があるのかを論じた上でのことだろう(費用というのは金銭のみならず副作用とかも含めて)。
新薬登場時によくある話なのかもしれないが、タミフル登場後しばらくは、「タミフルを飲まないとインフルエンザは治らない」という誤解が蔓延した。救急外来はまさに狂奔とも言うべき状況で、小松左京「復活の日」をリドリー・スコットが映画化したような有様だった。メリット・デメリットを比較する余地が生じてきたという点で、タミフルもようやく普通の薬になりつつあるように思える。H5N1の新型インフルエンザがヒトに流行するようになった時には、また状況が変わるのだろうけれども。


(注)自虐を排するに関しては「新しい保健教科書をつくる会」の啓蒙活動に期待する。まだ本会に関しては何らの情報もないが、反ジェンダーフリーの純潔教育や「生きる力」を重視する安倍政権の肝いりで近く発足すると思われる。どうせ発足するなら思いつき以上の仕事をして貰いたいものだ。

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