後医は名医で後知恵は猿知恵

本日朝のNHK「おはよう日本」で8時ちょっと前、小児救急の危機なる特集が流れた。ストーリーとして、
1.初期診療が遅れ後障害の残った症例の呈示
2.担当医の「もうちょっと早く治療できてたら」という言質
3.限られたリソースで重症者を迅速に診療しなければならないという問題提起
4.成育医療センターで行われている「トリアージ」の紹介
こういう起承転結であった。
特集の着眼点としては、まずまず合格点であろう。人を増やせったって今日明日すぐに増やせるわけでなし、初期段階で重症度を判定して重症者から診ていく「トリアージ」は今後は必須のものとなろう。それを指摘したということで、この特集を制作した意図は正しいと思った。
しかし特集の具体的な内容にはおおいに疑問を持った。最初に登場した症例の疾患はインフルエンザ脳症なのだ。40分かけて二次救急に搬送されたが、「けいれんを止めるばかりでインフルエンザという診断に至らず」、2時間後に隣の町の高次救急の病院へ搬送されたとのこと。その2時間がなければもうすこし予後が良かったのではないかという、ご両親のお言葉があった。
決してこのご両親をあげつらう意図はない。その意図はないのだが、しかし、その2時間を急いで何かを行っていたら後の障害が軽減されていたかというと、はなはだ疑問と申し上げざるを得ない。インフルエンザ脳症ってのはおそろしい病気だ。発症時点ですでにカタストロフィックな疾患だ。こういう特集で、トリアージして早めに対処すれば後が良くなる典型例だと取り上げられるような生やさしい疾患じゃないと、私は思っていたのだが。
二次救急病院段階での対処はそんなにまずかったか? まずけいれんを止めた。正解だ。そのうえで、もしも意識障害が続いていたら、状況に応じて気道確保など行ってできるだけ状態を安定させ、原因の究明にはいる。それは意識障害の救急対応の一般的なセオリーだが、そこでインフルエンザ脳症という診断が得られていたとして、この2時間のうちに行えば予後が良くなるようなインフルエンザ脳症に特異的な治療法がなにかあるかというと、私は存じ上げない。
しかし、ストーリー第2段階で、この二次病院から紹介をうけた高次病院(熊谷という土地の西隣にある自治体にある病院だ)の、この子の診療に当ったという女医さんが、もう少し診療が早かったら予後が現状よりも良かった・・・可能性があります(けっこう付け足し的に間をおいて)と明言された。いったい何をすれば?初診から2時間の内に行えば予後の良くなるようなインフルエンザ脳症の特異的治療っていったい何?とこの女医さんにはぜひ伺いたいものだと思った。私もまたけっしてリソースの充実しているとは言えない二次病院で小児科救急をやってる人間ですからね。ぜひお伺いしたい。こんな全国放送の特集で、いかにも手落ちと言わんばかりの指摘を受けるような、そこまで言うほどなら熊谷周辺ではよほど常識的な治療法なんだろうけど、京都の私は存じ上げない。何をしたら良かったの?
そもそも2時間って遅かったの? この二次病院で果敢にこの症例を引き受けた先生はどうやら小児科医ではなかったようなのだが。患者さんのご自宅から緊急走行で半径40分以内に引き受ける医療機関が存在しなかったような症例を、果敢にお引き受けになったわけだ。ひょっとしたらこの症例に専念できなかったかもしれない、多忙さが過酷を極めるのが常の二次病院でさ。けいれんを止めるしかしなかった、ってNHKの人はこともなげにおっしゃったけど、40分かけて搬送して病院に到着時にはまだけいれんしてたんだ。そんなものすごいけいれん重積を止めただけでも大したものだ。それから搬送に耐える状況まで2時間でもってった訳だろ? 2時間もって言うけど、現場だとあっという間だよ。私はこの二次病院は大したものだと思う。特集では、こんな半端なすかたん病院に運んだのが時間の無駄だって言わんばかりの扱われようだったが。紹介をうけた医者にさえ遅いと言われてしまったが。
しかし画面に出た略地図だと患者さんのご自宅からこの二次病院より最終的に落ち着いた高次病院のほうが距離的には近そうだったけどな。他所を悪く言うならなんで最初から自分のところで診ない?
たぶんこの女医さんもまた果敢にタミフルを投与しステロイドパルスとガンマグロブリンを行い、あるいは脳低温療法とかまで行って、高次病院の機能の限りを尽くした診療を行ったことだろう。二時間前から行っておればこの子の後障害が軽くなったような素晴らしい治療を。その業績にけちをつけるつもりはない。
しかし前医をこんなふうに腐してはいけない。この女医さんに全国放送でこんなことを言われたら、今後この病院はけっして小児救急を引き受けようとしないだろう。けいれんする子供を乗せて救急車が40分走らねばならないような土地で、必死に状況の崩壊をくいとめている二次病院を、たたきつぶすのは容易ではあろうが軽率に過ぎる。愚かに過ぎる。
周辺には、この高次病院には今後は決して患者さんを紹介するまいと、肝に銘じた医療機関も多かろうと思う。最初から自分たちで診ろよと。トリアージでもなんでもしてと。しかし高次病院に紹介できないと、重症そうな症例を引き受けることは無理だ。一斉に、周囲の医療機関が守りに入る。防衛的に、とことん軽症例しか診なくなる。子供をつんだ救急車なんて全車門前払いだ。この高次病院が一手に引き受けることになろう。一手には診れない? いや、診れるはずだ。今後は白血病も腫瘍も小児外科症例も循環器も内分泌も、紹介患者はがた減りするから、思う存分近隣全体から小児救急をどんどん引き受けて、適切な二時間以内のインフルエンザ脳症治療に邁進すればいいんだ。

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