バレンボイム氏の「告別」と挨拶

今年のウイーンフィルのニューイヤーコンサートはバレンボイムが指揮していた。アンコールでハイドンの交響曲「告別」の第4楽章、演奏者が次々に消えていくという趣向を映像で初めて観た。第二バイオリンの主席以外オーケストラに全員立ち去られしまうわけだが、指揮者バレンボイムのコミカルにおろおろしてみせる芸風が上品で微笑ましかった。
その後の指揮者の挨拶で、バレンボイムは「中東に正義が実現されますように」と言った。人間の正義、だったかな。普遍的な正義、だったかな。正義に何か修飾語が付いていたと思うが忘れた。正義の具体的な内容はむろん述べられなかった。でも、たぶんにそれは、ハマス殲滅とか、パレスチナ民族浄化とか、ガザ焦土化とかいった野蛮な内容ではないはずだと思った。聴衆が、冷めず引かず、さりとて狂信的熱狂的でもなくの、プレーンに盛大な拍手で彼の挨拶に答えたのが印象的だった。あの場で彼があの挨拶をするのが、聴衆にとっても自然なことだったのだろうと思った。
今日NICUで仕事をしながら、ふと、この二つの演出は一連のものだったのかなと初めて思った。聞く人によってはちくりと胸に刺さるだろうことを言う前に、ボケ役を自ら演じて見せたのかなと。シャイな人なのだろうか。多分に、そういう挨拶をしたとて、バレンボイム万歳みたいな個人崇拝がわき起こるのは潔しとしない人なんじゃないかと思った。これを機会にもう一度中東の行く末を考えてみようよと言う機運が起こるのは歓迎だろうけれど、これを機会にバレンボイムの演奏を聴いてみようと思った人に推薦するCD10枚なんてお話は勘弁してくださいというような人なんじゃないかなと。まあ勝手な理想化かも知れないが。
その後にエルサレム賞のごたごたが続いた。「社会における個人の自由」を描いた作家に送られる賞なら何故にさいとうたかを氏じゃないんだと思った。彼はちと彼国の防諜機関を敵役にしすぎたのかもしれない。

何か撃つ準備をしている件について

昼のニュースで、北朝鮮がミサイルだか人工衛星だかを撃とうとしているというニュースが繰り返し報じられ、そのあいだに挟まるようにさらりと、ソマリア沖で海自の護衛艦が不審船を追っ払ったというニュースが流された。それで、こんな会話が頭に浮かんだ。
「やあ将軍。元気かい。左手の具合はどうだい」
「ああタローか。君の口元くらいには曲がるようになったよ。ところで今度は何の用だい。さては君も辞めることにしたのかい。君らはいいよな疲れたら辞められるんだから。俺なんか脱出ルートと亡命先を確保しないとおちおち辞めるなんて言えないんだぜ」
「まあそう言うなよ。分ってるだろ。うちの船が4月あたまに例の場所に着くんだよ」
「するってえと俺は、君んところがまたぞろ侵略やってるって言えばいいのかな」
「おいおい怖いことをいってくれるなよ。君んところと違ってこっちは野党ってもんがあるんだよ。せっかく追い込んだイチローが最終回にヒットだなんてWBCの二の舞じゃないか」
「分った分った。4月あたまになにか騒げばいいんだな。悪役は辛いぜ」
「いつも悪いな。どかーんと一発たのむよ」
「どかーんと、か。そうだな。ここらでロケット一発ってのも悪くないな」
「ああ。悪くない。恩に着るよ」
「うちの最新型をまっすぐ東に飛ばすとすると、君んとこの、そうだな、秋田と岩手ってのか、そのあたりの頭を越せるけど」
「そりゃあいい。イチローにビーンボールだ。第7艦隊しか要らないとか言ってやがったからな。あはは。のけぞる顔みてバラクと笑うことにするよ」
「バラクにはよろしく言っといてくれよな。くれぐれも」
「ああ。分ってるよ」
 あくまで妄想ではあるのだが。でも、もしも護衛艦が撃ったとしたら、その衝撃を打ち消せるだけのニュースって、彼もまた撃ったというニュースくらいしかないんじゃないかと。逆に、もしも彼らが今日撃つぞって言ってくれなかったとしたら、たぶん昼のトップニュースは護衛艦の初仕事で、それに対して最近また影が薄くなり始めたイチロー氏とかミズホ氏とかがあれこれコメントするのを報じざるを得なかったんじゃないかと。いろいろ。実は日本の現政府与党にとって今回のテポドンは願ったり適ったりじゃないのかな。
 それとも、そんなふうに思わせるようなタイミングで彼らは打ち上げを準備してきたのか?だとしたらたいした策略だ。善悪はともかく巧みだ。

コンタドールがパリ~ニースでぼろ負けした件について

パリ・ニースでのコンタドールの負け方は痛烈だった。山頂ゴールの第6ステージでぶっちぎりで勝利しておきながら第7ステージでぼろぼろに負けた。ハンガーノックだったらしい。集団に追い抜かれるコンタドールなんてはじめてみた。ってそれほどサイクルロードレースをたくさん観てきた訳じゃないがね。とくに今回は第6ステージだけ有料オプションのチャンネルで放映するだなんてJスポーツもあこぎだ。日本のファンの呪いもあったんじゃないか。
ハンガーノックは苦しいよ。私もときどきNICUでハンガーノックを起こすからよく分る。とにかくポケットにはソイジョイだ。
しかしアスタナは彼にまともなアシストをつけてやろうって気がなかったんだろうか。ちょっと天狗になってるんで懲らしめてやろうってところだろうか。
「やあランス。久しぶりだな」
「どうしたヨハン。声に元気がないぞ。また小遣いに困ってるのか。下手なポーカーはやめろとあれだけ言ったじゃないか」
「いや真面目に聞いてくれ。若い者の鍛え方で悩んでるんだ。筋は良いんだけどな。監督の指示を無視して突っ走るし、果てはプロトンでけんかをしたりベテランの名前をわざと呼び違えたり。」
「なんだか俺にこたえてるようだが。アルベルトか」
「ああ。扱いかねててな。おかげでクレーデンはふてくされるしライプハイマーはすっかり胃弱だ。我慢してやってるのはポポビッチくらいだ」
「ようするに誰かががつんとやらなければならんわけだな。」
まさかそういう理由でランス・アームストロングが復帰したわけでもあるまいが。

マナだかカナだかが

マナのほうかカナのほうか分らなかったけれど、当直明けの午前勤務を終えて昼休みに当直室のテレビをつけたら、白衣の若い男と病院らしき背景で寄り添ってなにやら語っていた。症例検討会をやっているようには見えなかったし、たぶん私的なことを語り合うシーンだったのだろう。
これが悪評高いNHKのドラマかと思った。むろん当直明けで神経が立っているときだったし、同業者がマナだかカナだかと仲むつまじく語っているシーンなんていろんな意味で腹が立つばかりだから消してしまった。
しかしあの番組枠はどうしたって、構造的に、面白くないドラマを放送しなければならない宿命にはなっているんだろうと思う。朝と昼に15分ずつ緊急放送用の時間枠を確保しておこうという、公共放送ならではの苦労は理解しようと思う。撮りためておいて細切れに放送しておけば、一度や二度放映し損ねても編集でつじつまは合う。そこそこ時間埋めになって、しかも潰してもそれほど苦情は出なくて、といったそこそこ路線を狙うべき番組ではあるのだろう。
そうはいっても、だ。ちょっと悪評たちすぎじゃないか?マナカナはもともとNHKが発掘した素材ではあるしどう潰そうと勝手だと言われればそれまでだが。