新生児に気管内挿管するときは、左手の小指球から小指・環指のアーチをつかって新生児の下顎を固定し、拇指・食指・中指で喉頭鏡を持って喉頭展開する。いわば、左手を中指と環指のあいだで縦に割って、各々をひとつの単位として、連動して用いることになる。
それはたとえば、ナイフで鉛筆を削る感覚に似ている。左手に鉛筆を固定し、右手に持ったナイフを鉛筆に当てて、左手の拇指で押す。左手は二つの物体をコントロールすることになる。この場合、右手は添えているだけ。気管内挿管なら、右手に持った気管カニューレを差し込んでいくのだが。
大学で、若い医師が挿管にいちど失敗した。展開してカニューレを差し込んだのだが、進まないと言う。しかしそこで1サイズ細い径で挿管された日には、あとあと呼吸管理の困難さに泣かされる羽目になる。そこでまず私が喉頭展開して、展開したまま彼女に場所をゆずり、カニューレを差し込ませるところだけやらせてみた。幸い、するっと入った。赤ちゃんも息をふきかえした。まずはよかった。
たぶん彼女も声帯は見えてたんだろうと思う。カニューレが入らなかったのは、喉頭鏡の角度がいまひとつで、気管が屈曲していたんじゃないか。と、後になってこの記事を書きつつ反芻して分析している。ついつい頸部を過伸展しがちなんだけど、新生児の挿管では成人よりもはるかにシビアにsniffing positionにこだわらなければならないってことだ。その場でクリアにそう説明してやれれば、若手のためにもなったのだろうが、情けないことにそういう急場では手は動くけど口がなかなかついていかない。だいいち、今はこうして平然と記事を書いてるけど、そのときは内心かなり動転していたし。