便乗値上げをしたホテル、炎上したブログ

東北関東大震災の発生した直後に、東京の社長さんがブログで、混乱に便乗して宿泊代を値上げしたホテル社長を賞賛して、ひんしゅくを買った。結局、ブログが炎上して閉鎖してしまった。

でも今の世の中だと、震災のときに帰れない人を目当てに宿泊代を10000円から15000円に値上げしたことなんて、ころっと忘れられるんだろうなと思った。たぶん何事もなかったように、そのホテルはこれからも繁盛してゆくんじゃないかなと思う。そのホテルが潰れるのは、こういう価格変更が記憶されて閑古鳥が鳴いたときではなくて、隣に9800円のホテルができたときなんだろうと思う。

もし本当にお客さんが憶えていると判明したら、そのときには看板を付け替えて壁紙を貼り替えて、系列のホテルと職員を交換して、「悪徳ホテルが潰れたから施設を買い取って心機一転、良心的なホテルが新規開店いたしました」という物語を描いてみせればよい。社長さんの懐にはそれほどの痛みもないだろう。

一円でも安い店をネットで探して容赦なく乗り換えるお客さんなんて、いまどき珍しくもないだろうに。取引停止をちらつかせて下請けや卸を泣かすなんて今の日本には日常茶飯事だろうに。そういう購買行動がのさばっている時代に、売り手にばかり昔ながらの商売の道徳を要求するのはアンバランスなんじゃないかと思う。

じっさい、こういう社長さんたちが繁盛しているからには、こういう社長さんを繁盛させるようなお客さんがいるんだろうと思う。生き馬の目を抜くように、義理も人情も抜きで価格だけが勝負みたいなお客さんが。そういうお客さんと社長さんとで、成り立っていく経済もあるんだろう。あんまりお近づきになりたくないけどね。

せめてそういう人たちには、自分たちがひどく下品なことをしているんだと、自覚してもらいたいと思う。自分たちが社会のメインストリームだとかいう勘違いはしないでいただきたいと思う。お天道様の目を憚るようなことは、あんまり自慢げに語ったり人に勧めたりはしないものだ。

正しい悪の組織のありかた

「悪の組織」の正しいあり方について。

たとえば石原慎太郎首領閣下であるが、このたびの震災を「天罰」と喝破された。震災の膨大な被害や、原発の事故や、なにやかやで人心が鬱屈してきた時期、どこかに怒りをぶつけたいが良識ある身には誰を攻撃しようもないという時期に、実に正しいタイミングで石原慎太郎的な言動をとられた。もちろんのことに大顰蹙を買ったわけだが、この大顰蹙にエネルギーを吸い取られて、賢しらな政府批判が始まるタイミングが数日遅れたように思う。

なんで彼はいちいちあんな爪の先でガラスをこするような言動をとるんだろうと考えてみる。ここらでこういうことを言わねばならんと彼のゴーストがささやくんだろうけど、そういう、正しい「悪の組織」のありかたを彼は感覚的に知ってるんだろうと思う。むかし露悪的な小説を書き始めたころからの、同じ魂が彼を駆動してるんだろう。毎週日曜の朝にそろそろ仮面ライダーの活躍を観たいなと思って早起きするよい子のおともだちの期待を裏切らず、きちんと改造人間を送りつけて幼稚園バスとか襲撃させるショッカーの偉い人のように、世のため人のため、「許しがたい悪の組織」がなすべき仕事をきちんとこなしておられるんだろうと思う。

その後の撤回のしょぼさもまたお約束であって、ドクロ型の噴煙をあげて爆発したあげくに三人乗りのタンデム自転車で逃げるような、じつに正しい「許しがたい悪の組織の末路」を演じて見せたわけだ。すばらしい。彼の人気が絶えないわけだと思う。

閣下の偉大な業績を賞賛する過去の記事はこちら。
こどものおいしゃさん日記 うしろすがたのしぐれてゆくか : セカイにはばたけ石原慎太郎

東京電力という企業のあり方もまた、正しい悪の組織のあり方を踏襲しているんだろうか。最近の東電の行動のあれこれは、「原発が悪いんじゃないんです。みんな東電が悪いんです」というメッセージを必死に発信しようとしているようで、いやそこまで悪役にならんでもと多少気の毒なわけだが。そういえば、ショッカーを殲滅したゲルショッカーみたいに、組織本部へ乗り込んでいって大きな声で激励のメッセージを発せられた偉い人もあったな。

震災復興支援の新生児蘇生法講習会を考えています

さきの投稿にコメントをいただいて、当地(京都です)できることはないかとあらためて考えました。で、「震災復興支援新生児蘇生法講習会」を開催するのはどうだろうと考えつきました。

これまで数回、院内のスタッフを相手に無料の講習会を行ってきましたが、今後は公募をかけて、有料の講習会を行います。むろん義援金に充当するのが目的です。

おそらく、東北や関東から当地を含め西方へ避難してこられる妊産婦のかたは多くなるだろうと予測します。不慣れな土地で、すこしでも安心してお産に臨んでいただけるよう、新生児蘇生法普及に拍車をかけたいと考えます。まあ、象の尻をノミが蹴飛ばすほどの、ささやかな拍車でしょうが。

まだ何もしないうちから手柄顔してブログに書くのも何だと思いますが、私よりも経験を積んだインストラクターの方々にぜひご賛同をいただいて、各々の施設で講習会を活発に開催しましょうと呼びかけたいと思います。多くの人数をこなさねばなりません。私一人が少々手柄を立ててからなどと思っているうちに時機を逸してしまうことを恐れます。

それも、このさい、思い切って公募をかけて行きましょう。施設内にインストラクター資格を持った人間がいて、非公募の講習会を開いてスタッフ教育ができる施設は限られると思います。多くの妊産婦さんが避難して来られると、非公募の講習会には縁がないような規模の施設にもいっそうの活躍を願わねばなりません。公募でいきましょう。

しばらく沈黙しています

しばらく沈黙しています。震災に圧倒されて言葉もなかったためなのですが、自分も赤ちゃんの蘇生中(とくに重症な場合)などに傍からわあわあ言われるのをひどく嫌がる性分なので、無用の雑音をたてないようにというつもりもあります。

犠牲となった方々のご冥福をお祈り申し上げます。

被災地の皆様の生活の安定をお祈り申し上げます。

救援に向かわれた方々のさらなるご健闘をお祈り申し上げます。

福島第一原発でご健闘中の方々や周辺の皆様の被曝が最少となりますよう、お祈り申し上げます。

語り得ないことには黙っていようと思います。しかし、いま自分が語り得ることはどれもこれもひどく些末なことのように思えます。

否定も肯定もしないまま、2週間サスペンド

サスペンド、というサスペンス(あと2週間) – 感染症診療の原則

まあ、予想通りの結論と言えば結論。緊急会議の第一の目的は、この議論を緊急にやるべきかどうか、ということを議論することにあるんだろうから。で、まあまあ腰を落ち着けてじっくり話し合いましょう、ということになったのだというのが私の解釈。

この二つのワクチンを何年待ったことかと考えると、拙速のあまり無期限中止なんてことになったら悔やんでも悔やみきれない。今回の「あわてるな」という結論はまことに時宜を得た結論だと思う。評価する。設定された2週間のあいだに十分に議論をして頂きたいと思う。

こうして待つあいだ、世論もじっくりと腰を据えて待ってくださっているように思えて、世の中は進歩しているのだなと喜ばしい限りである。なにさま、予防接種の副反応を原疾患の危険度と比較して定量的に考えるなんていう議論は、20世紀末の日本では不可能だった。現代の親御さんたちには信じられないことでしょうけど、口にすることすら憚られていた。副反応によって健康を害された人の人権をふみにじる、非道はなはだしい議論だとされていた。いや原疾患で健康を害した人はどうなるの?と言えなかった自分たちにもふがいなさを感じて忸怩たる思いではある。

どうにも脇の甘いのは困ったものだが

前原さんを辞職に追い込むことで、自民党他のみなさんは、ゴルゴを雇う費用の100分の1くらいの出費で本邦の外務大臣を罷免に追い込む方法を世界中に示しちまったわけだが。それって彼らが言うところの「国益」なのか? 今頃北京でもモスクワでも、畜生その手があったかと苦笑いしてるんじゃないかと思うが。

三本ローラーに乗ってみたら子どもがよってきて困った

【即納】ミノウラ モッズ・ローラー(黒ローラー) ワールドサイクル

まず商品について言及。
・自分で組み立てることになるが、組み立てそのものはわりと簡単である。
・工具として17mmと13mmのスパナと、+のドライバーが必要。
・説明書は懇切丁寧。間違いやすいところが丁寧に説明してある。
・走行時の騒音はたぶん静かなんだろうと思う。わりと閑静な住宅街に住んでいるが、ガレージで動かしても室内には聞こえなかった由。他社製品と比べてどうかは、この製品しか知らないのでわからない。
・ローラーは金属製で、鼓型ではなく単純な円筒形である。ミノウラのメーカーサイトでは、そのほうが断面が真円となってよろしいのだそうだ。じっさい、あまり左右へ振れることはなかった、というか、左右へ振れるときには鼓型のローラーが押し戻してくれる云々以前に上体も揺れるのでどのみち走り続けることはできなかったので、私個人としては、鼓型でもあんまりエリート社などが喧伝するほどの意味はないように思った。

自宅待機で拘束されたり、天気が悪かったり、帰ったときにはもう暗かったり、いろいろ言い訳をして冬のあいだトレーニングをさぼっているうち、だんだんと腹が出てきた。その腹の出るスピードといったら、もうなんというか、中年ってすごいねと呆れるばかりだった。

そこで三本ローラーを買ってみた。固定ローラーはなんとなく据え付けが面倒くさい気がした。足の筋肉を鍛えるというより心肺機能を鍛えようというのが主眼だし、ペダリングも上達するというし、何となく三本に乗ってますと言った方がかっこよいような気もするし、半分以上は出来心。

組み立ては淡々と終わった。割とおもしろかった。ただ、説明書をきちんとよまないと、いくつか間違いやすいところがあった。ちゃんと読めば大丈夫だと思う。

まずはローラーの間隔をロードに合わせて乗ってみたが、やはり初心者がクリートをはめてロードで乗るのは無理そうだった。よたよたして恐ろしいので断念。

あらためてクロスバイクで再挑戦して、なんとか乗れた。説明書にある、ステム近くを片手で持って、もう片手で近場にあるものにつかまって乗るやり方ではなく、両手でハンドルを持って、肘を張って壁について体を支えてこぎ始めるやり方のほうがうまくいった。ある程度の速度でホイールが回り始めたら、勝手に自転車が直立して、肘も壁からはなれる。

だいたい時速25km以上出したら自転車が安定するので、それくらいを目標に走っていたのだが、予想以上に疲れた。恥ずかしいことだが、5分くらいであごが上がった。汗がしたたり落ちるので専用のネットやタオルで自転車を保護しなければなりませんという話も聞いたが、そこまでも到達しない。実際に道路を走っているときには信号やらなんやらで、意識的にか無意識にか、そうとうペダリングをさぼっているのだろうと思った。

ガレージで乗っていたので、通りがかった子どもに見つかった。小学校低学年くらいの男の子が二人、すげえと歓声をあげてガレージに入ってきて、ローラー台に見入っていた。高速で回転するローラーはいっけん静止しているようにも見えるので、うっかり触られては大けがすると思って気が気ではなかった。とうぜんペダリングは止めたが、ローラー台ではブレーキは厳禁なので(回転するローラーの上でブレーキをかけたら自転車ごと放り出される)、車輪とローラーが止まるまでが冷や汗ものだった。こっちの心臓が止まるかと思った。

組み立てに買った工具。いいかげん、ちゃんとした工具をそろえようと思ったので。

ANEX T型ラチェット付ドライバー 8本組 No.5700

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トップ 超薄スパナセット CU-5000

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肺炎球菌・HIbワクチン一次中止 いずれ不安は消えないものならば

厚生労働省:小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチンを含む同時接種後の死亡報告と接種の一時的見合わせについて

小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチンを含む同時接種後の死亡報告と接種の一時的見合わせについて

小児用肺炎球菌ワクチン(販売名:プレベナー水性懸濁皮下注)及びヒブワクチン(販売名:アクトヒブ)を含む、ワクチン同時接種後の死亡例が、3月2日から本日までに4例報告されました。(概要は別添)
ワクチン接種と死亡との因果関係は、報告医によればいずれも評価不能または不明とされており、現在詳細な調査を実施しています。

このような状況から、「小児用肺炎球菌ワクチン(販売名:プレベナー水性懸濁皮下注)」及び「ヒブワクチン(販売名:アクトヒブ)」については、因果関係の評価を実施するまでの間、念のため、接種を一時的に見合わせることとし、自治体及び関係製造販売業者に連絡しました。

なお、今回のワクチン接種と死亡との因果関係の評価は、医薬品等安全対策部会安全対策調査会と、子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会を、早急に合同で開催し、詳細な検討を実施する予定です。

当直が明けてみると大騒動になっていた。4例のなかには京都で発生した例もあった由。厚生労働省がこう言っているときに、当院では敢えて接種しますというわけにもいかなくて、いったん休止となった。

迅速な対応について、厚生労働省の関係諸氏の仕事を評価する。いきなり2日間に4例の報告とは、偶然にしては多すぎる。因果関係の究明までは、一時的な中止もやむを得ない。私も彼らの今回の処置を支持する。*1

中止を恐れるあまりに模様眺めをしているうちに重大な症例が集積していって、いよいよ追い詰められてから情報公開と接種中止ということになっては、結果的に情報の隠蔽をしたことになり、いたずらに世の不信を招く。それでは、仮に接種再開にこぎ着けられたとしても、接種率の低迷を招くのではないかと懸念する。個別接種を前提としている以上、保護者の信頼を得られなくては立ちゆかない。

信頼と言えば、本件に関する報道は、管見の及ぶ限りではあるが、節制の効いた報道ばかりで、いたずらに世の不安を煽ってよしとするところがなく、マスコミの報道ぶりを見直した次第である。ひと頃の、ワクチンについて言及するときには必ずワクチン反対派にコメントをつけさせていた時代とは、隔世の感がある。

何にしても、ここはひとまず腰を据えて、因果関係についてしっかり究明して、今後の対策をとっていただきたいと願う。

むろん市井の小児科医の立場としては、肺炎球菌についてもヒブについても、ワクチンの再開を切に願うところである。

今回のワクチンと死亡との因果関係は現時点では不明である。これは詭弁ではない。医学的な因果関係の究明というのは時間関係だけで片付くものではない。しかし、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌による細菌性髄膜炎や敗血症・急性喉頭蓋炎にかかった場合、それで生命の危険が生じるのは明らかなことである。

とはいえ、4例の症例から因果関係を立証するのは、相当困難なことだと思う。4人の死亡は悼むには多すぎるが、統計的な分析には少なすぎる。むろん、解明のためにはそのような事例がもっとたくさん発生すればよい、と言っているわけではない*2。しかし、疫学的/統計的な側面以外の、個々の症例でのよほど重大な新情報が判明しない限り、明確な結論はなかなか出しにくいだろうと思う。因果関係に関しての結論は、なんとはなくグレーゾーンな、何とでも解釈できるような、この二つのワクチンを接種再開するにしても無期限中止するにしてもどちらの根拠ともなり得るような、読む者に胆力を強いる報告になるのではないかと思う。

その場合、その報告を受けて予防接種を再開するかどうかは、かなりな部分、政治的な判断になるのではないかとも思う。

その判断を下す際に留意して頂きたいのは、これは「副反応の不安を抱えながらワクチンを続けるか、ワクチンを中止して副反応の不安のない生活にするか」という二者択一ではないということだ。そのような単純な二者択一ではない。単純なものではないと言いながら敢えて代案的なフレームワークを提示するなら、「ばくぜんとした副反応の不安を抱えつつワクチンを続けるか、明瞭に立証された肺炎球菌・Hib髄膜炎の不安を抱えてでもワクチン接種を封じておくか」の二者択一なのだ。むろん不安は最小化しなければならない。そのための解明の努力はなされなければならない。しかし事実がこうして生じてしまった以上、不安をまったく消し去ることは不可能である。いずれにしても何らかの不安は抱えつつ進まねばならない。まったく何の不安もない選択肢はあり得ない。どちらが、より理不尽さが少なく、現実化することも少ない不安なのか、冷静な定量的判断が必要なのではないかと思う。

なくなった4人の子どもたちには、心から冥福を祈るものである。

しかし、このまま因果関係も明らかにならずうやむやのうちに、単に関係者の保身目的にこのワクチンを葬り去って、その結果として本邦で細菌性髄膜炎で子どもたちがこれからも亡くなり続けるようなことになるとしたら、それはこの4人の子どもの冥福を祈る作法ではあるまい。それは無作為のうちに、これからの子どもたちに、この4人の子どもたちへの殉死を強いるようなものだ。

*1:例によって、仕事が遅いと彼らを糾弾する向きもあるようだが、3月2日からの報告で4日にはこの通達が出ているのだから、じゅうぶん迅速だと思う。惰性での批判は月並みである。

*2:読者諸賢には自明のことであろうが。