もうすこし狡猾な人間に国防を任せたい

 一川防衛相がブータン国王を招いた晩餐会を欠席し、政治資金パーティの会場でこちらの方が大事と放言した。続いて、田中聡沖縄防衛局長が、米軍普天間基地移転に関して婦女暴行にたとえた話をしたとして更迭された。

 国防の枢要を担う立場にこのような人々を配置していていいのかと突っ込んでみたい。彼らは自らの職務に関して、多少規範を外れた内容に言及しても周辺はみな自分の仲間であるから大丈夫、という前提をおいた行動をとった。「ここだけの話だけどさあ・・・」という話をする誘惑に逆らう自制心もなく、周りがひとり残らず「ここだけの話」ができる身内なのかどうかを見極める判断力もない(というかさあ、そういう状況なんざあり得ないくらいわきまえてろよいい年して)。

 なんかそう言う人たちに国防に関する機密に触らせておくと、あちこちで「ここだけの話」をされそうで怖い。ましてわざわざ自分で酒席を設けて報道各社を招いて「ここだけの話」をする会を開催しようってのはどういう了見なんだか。ということで田中もと局長の更迭は、発言内容の不道徳の故ばかりではなく、彼の資質はこの任に向いたものではないらしいという理由もあってではないか。

 報道各社の諸氏も多少はお怒りになってもよろしいんじゃないかと思う。そりゃあ記者クラブにもご参加でしょうし御用記事の一つ二つもお書きでしょうよ。だけれども、こういう話をしても黙らせておけるだろう位に思われてるんじゃあ、小馬鹿にされ方も相当なものですよ。

 とはいえ、「ここだけの話」をいっさいしてはならないなどとは言わない。「ここだけの話」という形で、いかに中央が沖縄のことを思っているか、しかしどうにもこうにもならないところへ追い込まれているのかを、切々と語ってみるってのはありじゃないだろうか。あるいは、シジョーとかカクヅケとかリマワリとかに一喜一憂しない、すがすがしい国家のあり方に対する尊敬や羨望を語ってもよくはないか。白々しいと興ざめになるのが落ちかも知れないが、その猿芝居をやりおおせて、周りにそれを信じ込ませられるほどの狡猾な人でないと、なかなか国防は担えないんじゃないか。

 あるいは、こうなることも計算の内の深謀なんだろうかとも考えてみる。

 普天間基地の移設については、話の節目節目で中央政府の人が茶々を入れる。なんかこう、東京でも実はあんまり話を進めたくないんじゃないかと思う。こじらせるだけこじらせて、オバマ閣下もう二進も三進もいきません、本邦において貴国軍がこれいじょう駐留をつづけるのは国民感情の上から不可能ですと、申し上げるための布石なのではないかとも思う。田中氏は自らの地位を犠牲にして、ほとんどもう自爆テロとしか言いようのない発言に挑んだのではなかろうか。いや、他にこの田中もと局長の言動になにかの思慮があったと言えるような筋書きは思いつかないんでね。

 ブータン国王の晩餐会すっぽかしも、たとえば今後胡錦濤氏とかプーチン氏とかの晩餐会も同様にすっぽかして見せることができたら、あるいは何らかの政治的に重要な意味合いを持たせることができるかもしれない。いや君らどれだけ図体のでかい国だって威張ってても俺らブータン国に対する以上の尊敬はしてませんから、とか。いや胡錦濤とかプーチンとかあいてじゃなく、オバマやヒラリー相手にそれをやることで、二人の志が完遂されるのかもしれない。

 たぶん、彼らはその作戦を「ココダケノハナシ作戦」と命名していることだろう。作戦完遂の暁には、勇者達を讃えたい。今はたぶん、国民総出で泥を投げるのが、彼らの意図に沿った対応だろうと思う。涙を込めた泥を投げることにするよ。こうして。
 

アナキンさんにはアナキンさんのご事情というものが

スター・ウォーズのエピソードIVとVを観た。ダース・ベイダーがたいへん魅力的に思えた。昔観たときは単なる悪役にしか見えなかったが。エピソードI〜IIIを観て彼の過去が分かったためか、あるいは私が年をとってものの見方がかわったためか。

エピソードIVでの彼はじつに頼りがいのある上司だ。率先して働くし、部下への言葉のかけかたもいかにも宜しい。レーアをとらえた時も、なるほどそれとなく彼女を庇ってたんだなと、今回はじめて腑に落ちた。予想外にいいやつじゃないかと思った。

エピソードVではたしょう酷薄な面が目に付いたが、息子を必死で探してたってことか。しかしやっと会えた息子に、ともに銀河を支配しよう云々と持ちかけたあたりは、父と名乗った直後のふたことめがそれかよと突っ込んでしまったが。なるほどダークサイドに墜ちるとはこういうことかと思った。

先日、NICUの若いスタッフが親御さんに関して批判的な意見を言った折に、いやいやこれまでの来し方とかご事情とかあるんだからとたしなめたのだが、まさか彼女も部長が念頭に置いてるのがダース・ベイダーだとは思いもしなかっただろう。

もうちょっと年をとったら、今度はパルパティーンとかヨーダとかに感情移入するようになるんだろうか。

本当に言いたいことは「俺も頭がいい」ということではないですか?

震災と原発事故からこっち、あちこち読むばかりで自分はだまりがちなんだけれども、よいエントリだなと思った記事につくはてなのブクマとか参照すると貶してあるブクマが多くて、その中には確かにその視点は自分も持たなかったと肯ける貶しもあるけれど、やっぱりどうしてそう言う読みができるかなというまるっぽ誤読としか言えない貶しもあって、それも、それは心底からの反論ですか?とゆるく聞き返してみたい貶しもあって、というのはそういう貶しの画面の裏から「俺頭がいいんだ!」という声が聞こえてきそうな気がして。たった数十字によくもまあこれほどありありと嫉妬とか自己顕示欲とか浮き上がらせることができるものだと、意図的にやってるんならそれはそれで確かに文才だと感心したりもして。俳句とか川柳とか始めてみたらどうですか?とかちょっとお勧めしてみたりしたくもあって。自分のブログにもそういう腐臭はしてるんだろうと思うと、何を書いても私もまた「俺頭がいいって言ってくれよみんな」みたいな願望が浮き上がってしまうんだろうな、と。

まあ、そういうグチグチを書き連ねておいて言うのも何だが、重大なことにものを言うときにはせめて、ほんとうにそれを主張したいのか、それとも本当に主張したいのは「俺も頭がいい」ということなのか、いっぺんふりかえってからにしたほうがいいんじゃないかな?と、ちょっと言ってみたくなったのでした。しょせんそういう自己顕示欲なんて気体分子のブラウン運動みたいなもんで、大きな流れにはなりようもなしってんでほっといていいのかもしれないけれども、何かと不完全な人間社会を考えるのに天上の誰かさんが拵え上げた物理世界をそのまんまアナロジーに持ってくるのはたぶん論理的に瑕疵があるんだろうし。

下っ端仕事

医者の仕事というのは不思議なもので下っ端ほど重要な仕事をすることになっている、と、月末や月初めの書類仕事をしながら思った。こういう管理業務なんて下手打っても仲間内のひんしゅくを買うくらいですむ。はんこの位置が違うって、だから何?書類の提出先を間違えたっていっても、総務も人事も同じ部屋で仕事してるでしょうよ。まわしてくれりゃあいいじゃないよ。

下っ端仕事は病棟仕事だし、病棟で下手打ったら患者さんが危ないよね。院長室で下手打っても病院が危ないくらいですむけどさ。管理業務こそ究極の下っ端仕事なんじゃないかな。初期研修医はまず院長理事長の仕事から始めて、だんだん熟達するにつれ患者さんの臨床に深く関わるってのはどうだろうね。