息子の近況

このところ息子について書かなかった。もう成人した彼についてあれこれ書くのは、いくら私が親だとはいえ、一人前の大人に対してすることではないような気がしていた。

彼は精神発達遅滞を伴う典型的な自閉症である。特別支援学校の高等部を卒業後、福祉就労して日々通勤している。距離は遠いがバスや電車を乗り継げるのでかえって嬉しい様子である。毎朝うちで一番はやく起きて、コーヒーを淹れ、新聞を取ってきて私の寝室に投げ入れていく。ゴミの日には家中のゴミをまとめてゴミ捨て場に出す。古新聞や雑誌はいつのまにかくくってある。飲み終えた牛乳パックは分解され水洗いされてある。自室や廊下にはまめに掃除機がかかっている。

一日働いての帰り道、暑い日には鴨川で涼んでくる。節分には縁日で面を買ってくる。公文の日には小学生たちに混じって一人うんうんうなっている。給金が出るとレゴブロックのキットを買ってくる。読み古したきかんしゃトーマスの図鑑を見せては十年一日の同じ駄洒落を言う。父親がビールを飲んだ夜には自分も飲んで赤くなる。長期休みになると長崎の両家の祖父母宅へ一人旅する。淡々と彼の日々が過ぎていく。

就労先ではよく働いているそうだ。新幹線の線路に近い施設でときおり揺れるのだが、それも鉄道マニアの彼には嬉しいことらしい。仕事はとあるハウスメーカーのサッシ窓の部品を揃え小箱に入れる作業と聞いた。彼はかけ算ができるので作業の見通しが早いとのこと。対して彼の難点は、なまじ図面を一目で見て取れるものだから、説明を聞かずに手を着けようとすることだとのこと。

たぶん彼の進路としてはいちばん幸運なところを得たのだと思う。それについてはひとえに妻の功績だ。彼の育児においては、いかに彼に分からせ納得させるかの一点に集中したと妻は言う。納得しさえすれば彼は手を抜かないから、彼に分かるようにとことん理詰めに説明したと。けっきょくTEACCHも目的はそこなんだろうと、父としても小児科医としても思う。

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