小児科発熱外来

当院では2020年の新型コロナウイルス流行当初の5月より、病院の喫茶室を改装して小児発熱外来を成人発熱外来とは別に設置した。当初は検査対象者もとくに方針を定めていなかったが、同年11月からは初診患者全員にPCRを行うこととした。設置後2年が経過した。早いものだと思う。

喫茶室は病院1階にあり、病院前のロータリーに張り出すかたちの設計になっていた。診察後にコーヒーでも飲みながらロータリーを見ていて、迎えの自家用車なりタクシーなりが回ってきたら出るという発想での行動に便利な設計である。感染防止のため会食制限となっては、病院の喫茶室は真っ先に営業を中止するべきと考えられた。ガラスのはめ込みであった外壁を引き戸に改装して外からの出入り口とし、病院外来ロビーからの入り口をふさぐことで、発熱外来への改装はわりと簡単だった。費用に補助金をいただいたこともあり。内部は最適なレイアウトが判明するまでと思って、人の目線ほどまでの高さの衝立でおおまかに仕切っていたが、換気が大事とわかってきてみると今さら衝立を廃して仕切り壁を設置する気もしなくなった。

外に面した窓に換気扇を3個設置し、診察室の卓上では二酸化炭素濃度を常時モニターしている。おおむね400ppm台である。空気の取り入れ口は出入り口からとなるので、常にすこし開けさせている。出入り口付近に立つと風が吹いているのがわかる。二酸化炭素濃度が600ppmを超えたときはだいたい出入り口が閉まっている。開けるとすっと下がる。

内部には診察ブースを2診、個別の待合スペースを衝立で仕切って7ブースほど(臨時に増やすこともある)、処置スペース。出入り口前にテント待合。たいていの小児科診療所よりは広いのではないかと思う。診察ブース脇の衝立はフィルターと換気扇内蔵で、診察中の子の周囲の空気を吸い上げてフィルターを通して天井方向へ排気している。その排気は窓の換気扇が外へ出す。

診察にあたる医師や看護師はむろん全身防護衣、いわゆるfull PPEである。かつての喫茶室スタッフ出入り口から入り、休止中のパン焼き窯のわきで防護衣他を装着する。手袋は患児ごとに換える。

2年間診てきても(とはいえ実際に小児の陽性者が増えたのは2022年に入ってからだが)、小児では症状所見からCOVID-19とそれ以外の感染症の患者を臨床的に見分けるには至っていない。強いて言えば病歴で、周囲にCOVID-19患者が存在すれば患児自身も陽性となる可能性が高いように思うが、それとて「周囲に風邪は流行っているが誰も検査されておらずコロナとも言われていない」子には応用しようのない問診事項である。どうしようもないので発熱はもちろん、咳嗽や鼻汁、嘔気下痢など、感染症の症状ある受診者はすべて発熱外来に案内している。明らかに周囲に陽性者のいる患児は自家用車中など別途で待ってもらう。

PCRは院内に2台保有しているが、小規模なので受診者全員分はできない。受診受付の早い子から院内PCRを行い、院内分がまんたんになったら検体を保健所へ送る。院内でやれば午後には結果が出るので電話連絡する。保健所に送ればだいたい翌日判明で、保健所が結果連絡までやってくれるが、この場合も我々から発生届を提出しなければならないのはいささか「お役所仕事」だなとは思う。むこうも忙しいのだろうしその方が手間が良いのならこちらで代行することも悪くないと思って協力している。

抗原定量検査「ルミパルス」という機器も院内にはあって、これを使えば小一時間(検査時間は正味30分)で結果が出るのだが、感度80%では5人に1人を見落とすことになるし、低い測定値での陽性のときにPCRで再検すると陰性という、いわゆる偽陽性例も散見されるので、小児科の診療部長である私の一存で小児は原則RT-PCRとさせている。ID-NOWという正味13分の機器もあるが、これも感度はルミパルスを超えないらしい。

小児科で専用の発熱外来施設を持っている病院の話は当院以外には聞かない。わりと贅沢なコロナ診療をさせてもらっていると思う。しかし一番贅沢になったのは非感染症の患児の診療であろう。従来の小児科受診者の大多数を占める感染症症状の患者がそっくり発熱外来に異動したかたちになったので、便秘や夜尿、長く続くなんとはなしの体調不良、起立性調節障害、不登校、このような子らの話を平日午前中の外来で時間をかけて聞けるようになった。コロナ禍の意外な余禄であった。

コロナ禍が「終わった」としてもこの感染症と非感染症を分ける外来運営は続けていきたいという希望がある。コロナによって当院の小児科外来がいちだん向上した感がある。またぞろ発熱や咳嗽で不機嫌な児でごった返す外来に戻り、何となく行動に違和感のある児と他にもなにか言いたそうなその親御さんを早々に退出して貰わないと診療が「回らない」という日々は、過去のものと思い返せばいかにも片手落ちで、あれに戻るのは気が進まない。