MRSAの伝染性膿痂疹

先週末から外来でフォローしてました。
いわゆる「とびひ」は小児科の夏の風物詩ではありますが、起因菌がMRSAでした。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌ってやつ。ついにこの日が来たか、という感じでした。別に広域抗生剤など使ったこともない極く普通の乳児のとびひからMRSAが検出される時代になりました。
途方に暮れましたね。
それだけ世間にはMRSAが蔓延してるって事でしょうね。これだけ広域抗菌剤が無闇やたらに処方される時代ではね。夜間に救急外来にお出でになって「近所の先生からこの薬を頂いたんですけど熱が下がらないんです」と仰る親御さんから薬袋を拝借して中を覗いたらまあ出てくるわ出てくるわ、セフゾンのフロモックスのメイアクトの、ちょっと気を利かせたつもりでジスロマックの、もう最新の抗生物質がただの夏風邪に片っ端から処方されてます。その挙げ句、世間の黄色ブドウ球菌や肺炎球菌やインフルエンザ桿菌が、じわじわと抗菌薬への抵抗の仕方を憶えて行きつつあります。
世間のお医者さんに申し上げたい。発熱患者全員に自動的に広域のβラクタムを処方するのはもう止めましょう。咳と聞いたらマクロライドの処方を書くってのももう止めましょう。効かなくなる頃には新しい薬が出るさなどと、同級生をおもしろ半分にぶち殺す中学生みたいな見通しのない精神性を発揮するのはもう止めましょう。片っ端から新薬を作って売って儲けるだけの製薬会社に丁稚扱いされるのはもうプライドにかけて止めましょう。
それともう一つ、言いたいことがあります。

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「まだ人間じゃない」P.K.ディック ハヤカワ文庫SF

近未来のカリフォルニア。妊娠中絶に関する法律が改定を重ねて、12歳まではまだ人間じゃないってことになっていて、両親がこの子は要らないと言ったら行政のトラックが連れに来るってお話。30日間養親が現れないか待って、引き取り手がなければ殺してしまいます。
檻付きのトラックが音楽をならしながら街を走り、申し出のあった子供を捕らえていきます。子供たちは次に連れて行かれるのは自分じゃないかと怯え、連れて行かれた友人について語り合い、トラックを襲撃する空想も語り合います。夕刻になっても、ひょっとして今日こそあのトラックが自分を待って居るんじゃないかと怯えて帰る足がのろくなります。
ちなみに、12歳までの子供が人間じゃないのは、代数ができないからだそうです。
こんなくそったれな国とはおさらばだと、主人公の少年の父親はカナダへの移住を口にするのですが、経済的な理由から二の足を踏んでいます。行きたいねえ、といいながら結局は行かないってことが分かってる、というまるで進歩のない結末。
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P.K.ディックが書き続けたのは、こういう八方ふさがりの状況に置かれた、あまり立派ではない男たち(敢えて言えばクズ野郎)の姿です。たぶんにディック本人がクズ野郎だったんです。生涯に5回の結婚離婚を繰り返し、薬物を濫用し、プロットの破綻したSFを次から次に書き続けた男です。
作品の有名どころでは、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」これはリドリー・スコット監督の名作「ブレードランナー」の原作となりました。「トータル・リコール」の原作になったタイトルはなんだったかな。新潮文庫の「模造記憶」にでてたんだけど。最近も何か彼の作品が映画化されてましたね。
自分の見ている現実が本物なのか?という仮想現実がらみの設定をよくするので、最近バーチャルリアリティという言葉の発音をビジネスオヤジやマスコミ心理学者が憶えた時節から急に注目を集め始めた作家ですが、彼が書いてたのはそんな高尚なお話ではなくて、クソったれた状況でなんにも出来ずにぐずぐずしているクズ男たちの姿です。
要するに君や僕みたいな人の痛いところを突きまくってあるのね。どれを読んでも自分のことを書いてあるような気がしましてね。げんなりしながら読み続けています。