うちはNICUであってNOVAではないのだが

4月からスーパーローテート2年目の研修医が来るとのこと。一人2ヶ月ずつの小児科研修である。
部長が張り切っている。彼が作成したらしい研修プログラム案ってのが配布されてきた。その中に、”English presentation”をさせると書いてあった。どうやら研修医たちは受け持ち患児について、毎朝毎夕、英語で病状を述べなければならないらしい。
昨今の研修医はそこまで英語に堪能なのだろうか。たった2ヶ月の研修で、それまで経験の無い小児患者をおっかなびっくり診ているときに、その病状を英語で喋れと要求されるなんて、大抵の研修医にはハラスメントもいいところではないだろうかと思う。「お前みたいな凡庸な奴は小児科に来るな」というメッセージだと受け止められかねないとも思う。逆説的な言い草だが、そういう些細な事にも「俺はそれで大丈夫なんだろうか」と自分を振り返るような、謙虚で自己を顧みることのできる研修医さんにこそ、小児科を選んで頂きたいのだけれども。
英語力はともかくも、研修医は医学が未熟であるから研修にくるわけなのだろう。私ら多少は年の功を積んだ医者なら無意識に感じ取ってるような、至極ありふれた徴候でも、彼らには新奇な初体験のことばかりのはずだ。いくら勉強を重ねていたとしても、患者さんの発する生情報が、読み囓ってきた知識のどれに該当するのかさえ、覚束無く思っていることだろう。彼らは見るもの聞くもの全てに、目をこらし耳を澄ませて意識化しなければならず、それを表現するにも、考え抜いて自分の言葉に言語化することに多大な労力を要する。であれば、私ら指導側は、彼らに最大限リラックスさせて自在に喋らせてやらねばならず、彼らの言うことは一言残さず受け止める姿勢を示さねばならず。部長は自分が新米の時のことを覚えてないんだろうか。
例え研修医でなくとも、私はNICUでは医者に英語で喋って欲しくない。何となればその内容が看護師に通じないからだ。看護師もベテランになればなるほどに、病棟内で交わされる会話や赤ちゃんの立てる物音やといった森羅万象に聞き耳たてているものだ。医者同士がその赤ちゃんの何に医学的関心を持って議論しているかなんてことは、優秀な看護師なら何をおいても聞きたい内容のはずだ。彼女らに「俺たちの議論に参加するな」というメッセージを送ってどうするんだよと思う。
やれやれ。ピンクの兎が踊ってるぜ。うちはNICUであってNOVAではないはずだが。