彼は背広を着るべきだった

万波医師は背広を着て登場するべきだった。彼の、胸元のはだけた手術着姿は、見る人の余計な攻撃心をあおってしまったように思える。私など不徳の至りでなんとなく横山弁護士を思い出してしまったんですがね。
徳洲会は早期に彼を紳士服の青山かハルヤマかにつれていけばよかったのに。まだ彼が「臓器売買に巻き込まれて困惑した医師」の立ち位置にあるうちに。耳なし芳一が全身をお経で守ったように、万波先生は背広で自身の気配を封じるべきだったのだ。そうすれば、臓器売買事件の取材に宇和島にやってきた面々も、もうちょっとこの医者をつついてみよう的な思惑を起こさず、すんなりと解散したんじゃないかと思う。
むろん、彼が行った一連の腎移植について、冷静に論じる必要はあろう。いっさい問題なしとは私も思わない。しかし、病的腎など以ての外と切り捨てる現在の論調もなんだかなあと思う。万波潰しが先に立ってるようで気の毒だ。もうちょっと冷静に議論がすすまないものかな。
健側腎がしっかり機能している人からなら摘出が適応の病的腎でも、両側とも腎機能がまるで廃絶している人にならいくばくかでも役に立つという可能性は、ほんとうにないのかな。病的腎なんて穢れたものを他人様の身体に入れるんじゃねえみたいな門前払い的議論ではなくて、本当にためにならないことだったのかを、個別の症例で見当するべきじゃないかと思うのだが。