長距離であるほど荷物は軽めに

今回は持って行った荷物はほとんど使わなかった。いちおうアンビューバッグとマスクや気管内挿管キット、初期輸液一式など、Timbuk2メッセンジャーバッグに詰め込んで担いでいったのだが。

そんなものを使う状況になるという時点でカタストロフなので、使わずにすむのが最善ではある。一方で、自分だけに限局した話なのか世間一般に通じることなのかよくわからないけれど、準備してこなかったものに限って必要になるというジンクスはある。何度も痛い目にあって、自分の勤務地から出発する新生児搬送では必ず(たとえ院内の手術室までの往復であっても)常に道具立てを整えて充電してある搬送用保育器と付属品一式を持って行くことにしている。御神輿と変わらないなと思いつつ。いや、御神輿で結構。

今回はややこしいことに、研修と称して春から居候していた大学病院が出発地だった。いつも使い慣れた道具類は使えない。それに今回は超長距離で、途中で新幹線など使うので赤ちゃんも抱いていくから、搬送用保育器自体使えない。搬送用保育器に工具箱など取り付けていく普段のスタイルが使えず、背負える分量がそのまま持って行ける分量となる。なんか旧陸軍の歩兵と変わらん。距離は長いのに持って行ける分量はかえって少ない。

でも道中で使う物資が、医者一人が担げる分量を超えるとなると、そんな重症例の搬送を一人でやれるかという疑問が生じる。救急蘇生ABCのAはAnother doctor, CはCall for helpだし。BはBehind the nurseだったかな。まあそれは半分冗談としても、二人して担ぐほどの分量があるなら二人連れでいこうよということだ。

東海道新幹線を利用して赤ちゃんを関東まで搬送してきた。

東京駅から先はけっきょく自動車を使った。今回は東海道新幹線JR東海の利用経験で。

  1. 切符の手配は私(=医師)が電話でJR東海と日程や座席に求める条件の細部を交渉した。JR東海のウエブサイトで調べて車椅子利用申し込み番号にかけてみたら、そこで交渉ができた(ように記憶しているが一度の電話で済んだので記憶が定かではない・・・一般的常識では連絡の一つ一つを記録してのちの役に立てるんだろうけれども)。第2希望まで日時を聞かれたが、第一希望で通った。
  2. 駅までは救急車で来るのか、構内での移動手段は車椅子かストレッチャーか、構内で職員を介助に付けることが必要か、など詳細に聞かれた。ノウハウができあがっている感じがした。最後に人工呼吸器や酸素ボンベを使うかまで聞かれたのは前述の通り。
  3. 家人に切符を買いに行って頂いたが、京都駅はJR東海JR西日本が混在しているので、JR東海側の売り場(八条口側)に来てくれと念を押された。
  4. 当日は多目的室内の座席を指定する形で、席をとってあった。乗車したデッキに女性の車掌さんが待っていて、多目的室に案内してくれた。
  5. 多目的室内は、開けば寝台になる二人がけの座席と、折りたたみ椅子があった。寝台特急で言えばB寝台の個室ていどの寝心地なのでは?と思ったが、そんないいものに乗ったことがないのでよく分からない。息子が購読していた「鉄道データファイル」の記事からの類推である。
  6. 上着をもっていくこと。多目的室の空調は独立していない。冷房がよく効いて、寒いくらいだった。たぶん大部屋で上着を着たまま肩を寄せ合って座っておられるビジネスマーンな方々のための温度設定だ。赤ちゃんは「おくるみ」で難をしのいだ。お母さんは女性の知恵で上着を持っておられた。私はいい年をして背広を着てくる知恵もなく、馬鹿正直にクールビズでシャツ一枚だったのでいちばん凍えた。人目を憚らず白衣を着れば良かった。あとで車掌さんに聞いてみたら、車両全体の温度を上げるという手段もあるとのこと。昔の私ならそれを要求していたかも知れない。
  7. 弁当を持って行くこと。多目的室内にいる限り、車内販売が来てもまず分からない。その一方で、新幹線を降りた後よりも乗っている間のほうが落ち着いて食事ができる。腹が減っては戦ができない。食料と飲料を持参すること。ちなみに今回の赤ちゃんは完全母乳栄養だったので、赤ちゃんの食料は全く自然にまかなえた。
  8. 乗車してまもなく赤ちゃんが空腹そうな様子になったので、母乳を与える間は私は(いちおう男性であるため)デッキに出て待機していた。待機中デッキでみていると、多目的室の向かいにトイレがあり、順番を待つ人がこちらもトイレではないかと勘違いして多目的室のドアを開けようとすることが少なからずあった。車掌さんには中から施錠するようにと言われたが、なるほどと思った。
  9. どのあたりを走っているのかもよく分からない。腰を据えて、日本の鉄道は到着予定時刻きっかりに目的地に着くのだと腹をくくって待つか、あるいは時刻表を持っておくか。またはガーミンあたりから出ている携帯用のGPSを持って行くか。
  10. N700系の加速減速はおそろしく滑らかで、走っているのかどうかも時折分からなくなった。救急車で搬送するときのような、がちがちの固定はしなくても良さそうに思えた。