ネジは最後まで締めるもの

アトムの吸引瓶には締めるネジが3カ所付いている。
まず締めるのは蓋の裏側のフィルタのネジ。しっかり締める。ゆるむとフィルタが瓶内に落下する。金属部品付きなので瓶の底が抜ける可能性がある。
次に蓋を吸引瓶本体に装着する。蓋の外周には当然ねじ山が切ってある。しっかり締める。弛むと本体が落下する。瓶が割れたり吸引物(痰だったり吐物だったり)がぶちまけられたりする可能性がある。
次に蓋の上部についているネジで、吸引圧を調整する計器にネジつける。
ここがポイント。
このネジは最後まで締めてはいけない。半廻しゆるめる。
最後まで締めると瓶に吸引圧がかからない。吸引ができなくなる。
何故にこんな変な設計になっているのだろう。私には分からない。
分かるのは、これは事故の元だと言うこと。
今日の昼にも未熟児の帝王切開があり立ち会い要請があった。若い医者(なんと私より若い医者がいつの間にか配属になってたんですよ。やっほう!)が今日の当番だったのでラジアントウォーマーやら物品一連を準備して立ち会い配置に付いた。私も水曜午後は仕事がないので見に行ってみた。もう子宮が見えていて、型どおり赤ちゃんが生まれた。元気な産声だ。助産師がラジアントウォーマーまで赤ちゃんを連れてくる。
さて、型どおり身体を拭いて、口と鼻を吸引する。若い医者が鼻から吸引を始めるので、おいおい口からだろうとつっこみを入れようと思ったが、何かおかしい。吸えている気配がない!
もの入れからバルブシリンジを取り出して応急に吸引しつつ、それちゃんと吸えてるか確認しろと若い者に言う。吸引の圧力計は上がってますと若いものが言うので、カテ先に指を当ててみろと返す。触ってみてもカテ先が指に吸い付かない。それみろ、吸えてない。
とりあえず赤ちゃんの処置を済ませて、それから吸引瓶を分解して見せる。
問題のネジを最後まできちっと締めると、吸引の圧力計は上がるがまるで無音。
半廻しゆるめると、シュウシュウと音を立ててカテ先から空気が吸い込まれていく。触ると指にも吸い付く。
あぶねえ。
この子は分娩時仮死もなく、ほんとに吸引が必要だったのか分からないくらいの微量の液体しか口や鼻に含んでいなかったが、はたしてこれが胎便ドロドロの仮死分娩だったらこの子を救えていたかどうか。我々の首まで危ない。
はっきりとこれは設計ミスだ。ネジが付いていたら世間一般に最後まで締めるものだ。別に万力を持ってきて締めるように作れとは言わない。人の手でつまむような形のネジをつけているのなら、普通の人の力で普通に締める程度に締めるのだと考えるのが人情だろう。それを最後まで締めたら機能しませんなんて、そりゃ無理無体な言い分だ。最後まで締めてはいけないネジなら締めたらいけない限界のところにストッパーをつけておくものだ。あるいは、最初からネジ山を余計な深さまでは切らずに置くものだ。
いちど不良品だと文句を言ったら、NICU部長や手術室婦長(当時は婦長と言っていた)に、なにを常識を知らないことを言ってと言わんばかりのけんもほろろの扱われ方をしたのだが・・・新人が入るたびに事故の元になってるじゃないか。
むろん、吸引瓶に延長チューブをつけてカテーテルをつけたら、本当に吸引圧がカテ先までかかってるかどうか、触ってみるなり蒸留水でも吸ってみるなりして確かめるのが慎重な態度というものだ。それはまあ今後新人教育として行っていくべき事かも知れない。しかし、慎重に扱いさえすれば問題はないなんて、リスクマネジメントとカタカナで書ける程度の知恵があれば、まず口にできないセリフである。可能な限りの事故の元を排除し尽くして、それでも起きるのが事故なのだ。

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