戦前の少年犯罪

戦前の少年犯罪
管賀 江留郎 / / 築地書館
ISBN : 4806713554
昭和元年から20年までの時期に発生した少年犯罪について、当時の新聞から事例を集めたものである。本書によると当時は今以上に未成年者による殺人が多い。それも貧困によるものとは限らない。かぎらないどころか、徴兵前の10代は働き口も多く金銭には困っていなかったとのことである。戦前には性犯罪も多いし虐めも校内暴力も学級崩壊も多い。なのに戦前の親の甘さや放任ぶりは目に余る。自分ではしつけの一つもできないくせに学校の先生を責めたてるモンスター親も戦前からあるものらしい。まあ学校の先生も小学校の修学旅行で生徒を強姦したりしてるから似たり寄ったり。引用されている新聞記事は、このペースで猟奇的事件が続いていたらサカキバラ事件も影が薄れるかもしれんとさえ思える。加えて、旧制高校の学生という、特権意識丸出しに治外法権状態で犯罪行為を繰り返した史上最低の連中がいないだけ、現代はマシかも。
なにしろ、読んでたいへん勉強になった。昔の日本の子育ては折り目正しくて立派だったが現代の親も子もダメだ云々の世迷い言に悩まされたことのある人なら、是非にも読むべきであると思う。というか本書で横っ面をひっぱたいてやりたい奴の顔が一人二人と浮かばない聖人君子ってあるんだろうか。私の領域でも、さすがに戦前の新生児学が今より優れていた等とは言われないが、一般小児科ではむかつくことも多い。とくに小児心身医学の方面に、現代の子育てが悪いから云々と客観的事実と偏見とがごっちゃになったような教科書を書く大家があって始末に悪い。今後はそういう大家の言も相対化して聞くことができるから、自分の診療に一本強い芯を通せそうで嬉しい。感謝感謝。
著者はべつに現代の子供たちにシンパシーがあってこういう書物を著したわけではなく、ちょっと昔の新聞に目を通す程度の調査をすればすぐにも分ることに関して、まったく調べもせず無根拠なことを言いたい放題にする言説がまかり通っているという現状に対しての問題意識が執筆動機だとのこと。その学問的不誠実に我慢ならないのか、著者はそうとう怒っている。怒りぶりからすると、やっぱり現代の少年に対するシンパシーも、著者の言葉に反して実際は相当にあると見える。現代の少年たちに対してさんざん投げつけられる紋切り型の攻撃表現をそのまま使って戦前の少年を腐してあるから、結果として文章表現がかなり攻撃的である。はっきり申し上げて品がない。それは意図してなされていることなのだから、それも芸のうちと、読者がその背景を斟酌して読む必要はあると思う。
本書が世に問われた以上は、これまでの自身の言動を恥じて、今後は多少なりとも口を慎むべき面々が、犯罪○○学とか教育○○学とか精神医学とか推理小説家とかといった分野を中心に多々あると、私も思う。ただそういう面々がほんとうに慎むかどうか。せいぜい、「自分を棚に上げて若者を腐す人たち」とか「無根拠に若者を腐す人くささない人」とか「頭のいい人の若者こきおろし術」とかといった便乗本を平然とした態度で書くのが落ちだと思う。本書はたしかに優れた著作だが、本書によって彼らに一矢報いることができると著者がもしも考えていたとしたら、厚顔無恥という悪徳に関して、私などよりも多少楽観的であるように思われる。

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