職業と家庭の両立とかいうベタなおはなし

現在の日本の学校制度では、医師免許を取得する年齢は最短でも24才。その後に2年間のスーパーローテート研修を経て、26才で小児科研修開始、3年やって小児科専門医試験の受験資格を得る頃には30才目前である。さらに3年間のNICUでの研修を経て、周産期新生児医学会の専門医受験資格を得るのが最短で32才。2〜3年も働けば、妊娠出産すれば高齢出産と言われる年齢になる。うっかり、研究も楽しそうだなとか言って大学院4年とか加算してごらん。

労働集約的な業界の常で、新生児業界はいつだって若い人絶賛大募集中なわけだが、こういう人生の見通しを若い研修医たちに明示してなきゃ詐欺くさいなと思う。

どこのNICUでも、欲しがるのは年中いつでも残業当直OKの人なんだろう。だけれど、女性が新生児科医を目指して、しかも高齢出産とならない時期の妊娠出産をとなれば、専門医研修の時期に産休育休ってことになるし、その後も育児との兼ね合いで残業とか当直とかには制約が多くなる*1

NICUに年中泊まり込んで新生児医療に没頭する時期ってのも、若い頃の研修中には有意義なのかもしれない。研修医に、そういう勉強を可能にする豊富な症例や指導陣や医療機器が揃っていますとアピールするのもよいと思う。でも彼らには、まず職業的に一人前になってからとか言ってるとあっという間に30台後半だよとは明言してやるべきだとも思う。

いま研修医達がどのような医者のすがたを新生児科医の理想と思って/思わされているのかは知らない。だってうちみたいな場末のNICUには研修医なんて来ないし。でも私の想像通りに、日夜NICUに泊まり込むような医者、週2回も3回も当直し自宅待機する医者、休日も自主的に回診にくる医者、そんなワーカホリックな姿をもって、研修医達の理想の姿とされているなら、その姿で一心不乱に働く人生のまっすぐ延長線上には、医者人生の円熟期の理想像はまずありはしない。

子育て云々言ったけれども人生の再考ポイントは育児だけとは限らない。24才で医者になって、65才まで医者をやるとして、その間だいたい40年ほど、徹夜仕事ができるのはそのうち最初の10年ちょっとくらいだ。最近当直が「残る」ようになったなあとか嘆息しはじめる時点で、あるいは当直明けにシャワーあびなくっても肌の脂が気にならなくなったなあとふと気づいた時点で、まだ医者人生は折り返しにすら到達していない。

その後の20年あまりを、どのような医者であろうと志したい/志させたいのか。

それを考えさせず提示もせず、とりあえず2〜3年の期限付きで身を粉にさせる、サターン5型の1段目みたいな扱い方をするのでは、若い人を使い捨てにするも同然だと思う。それをやってる業界が、医師不足うんぬん言うのは、まあ、自業自得ってもんじゃないかとも思う。

*1:夫の育児協力がいまどき当たり前だろって言われる向きもあるかもしれないが、女医さんの夫ってやっぱり医者であることが多いし、女医さん以上に育児参加は困難なことが多い。いったい胸部外科の30台男性医師が「今日は嫁さん当直なんで子守りがあるから緊急手術無理っす」とか言ったら出世コースに残れるものかどうか。医局にすら残れないかもしれない。

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