
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞
- 発売日: 1993/07
- メディア: 単行本
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この人の書くものはどれもこれもどうしてこんなに面白いんだろうと思う。そんなに凝った文体や表現でもないし、題材もなんとはなく見聞きしたことを淡々と書かれているだけのように思えるのだが。
こういう、筆力がすごくて強制的な説得力をもつレベルに至った人は、多少の創作をまじえても読者はそのまま信じ込んでしまうと思うので危険だ。その最たるものが坂本龍馬だと思うけど。
本書で語られるのは北海道のオホーツク海沿岸の歴史である。とくにアイヌ以前、樺太から南下してきて宗谷から知床にかけてのオホーツク海沿岸に住み、主に漁労など採取生活をしていたウィルタ(オロッコ)の歴史が本書の中心となる。彼らが残した多くの遺跡について、それを発掘してきた人間的魅力にあふれる研究者達について。また大事なこととして、幕末から戦後にかけて日本とロシアの間で翻弄されたウィルタの現代史について。
彼らの文化と続縄文文化が融合してアイヌの文化が形成されたとのこと。その時期は意外に新しく鎌倉時代あたりだとのことだった。アイヌの歴史は意外に新しいと本書では何回か語られるのだが、それはアイヌを軽視しようとして反復強調したのではなく、たんにもともと週刊誌の連載記事だったからというだけだろう。それはともかく、鎌倉時代というと12世紀から13世紀あたり、中世の温暖期がだんだん終わる頃だよなと思って興味深く読んだ。オホーツク海沿岸でのウィルタの文化の衰退と、たとえばグリーンランドのバイキング植民地の衰退とはほぼ同時期である。