午後10時以降の小児救急外来を停止して久しい。再開のめどは立たない。
直接のきっかけはついに過労で医師がひとり倒れたことだった。幸いに生命に別状はなかったが、心胆を寒からしめる事態であった。当院の、小児科常勤医に月7回ほども当直を命じなければならない規模では、終夜の救急は無理と、観念せざるを得なかった。
そろそろ潮時かとも思っていた。当地の親御さんの認識は素晴らしいものがあり、救急医療現場の疲弊が人口に膾炙するにつれ深夜の救急来院は減少し、止める直前には数名程度になっていた。それも区内からの来院はほとんどなく、多くは隣区からの、まったく当院は初めてというお子さんばかりになっていた。当院来院のいきさつを尋ねてみると、隣区のある病院が、深夜ならあの病院へ行けと「電話相談」で案内していたということが判明した。直接その病院に確認すると、そのように案内していますと実に屈託ない返事が返ってきた。一般の方々にさえご理解を頂きつつあることがどうして同業者に分からないのかと暗澹とした。身を削る思いをして救急を維持しても、覆いかぶさってくる面々はその負担を和らげようと心を配ることはなく、むしろ我々の残った身を削り尽くすまで覆いかぶさってくるのだと思った。共有地の悲劇。ほんらい俺たちの心身は彼らの共有物ですらないというのに。
小児救急を止めたら当直で寝られるようになった。むろんNICUはある。新生児搬送もあるし、重症の子があれば徹夜もする。NICUを増床し看護師のマンパワーも充実してきたことで、NICUでの仕事はむしろ増えた。しかし寝られる夜は確実に増えた。
そして頭の中に霧のようにもやもやと続いていた疲労が、十年ぶりに晴れた。いろいろな本も読めるようになった。そういえば俺は昔はよく本を読んでいたよなと思った。しかしなによりの違いとして、同僚や先輩後輩あるいはコメディカルに当たらなくなった。怒りの沸点が上がり、もういいやと自暴自棄になって凍り付く融点が下がって、よどみなく方円の器に従う状態でいられる範囲が広がった。エレベーターで乗り合わせた薬剤師に、先生はこのごろ丸くなりましたねと言われたことがある。この明るくて笑顔のすてきなスタッフにまで無用の圧力をかけていたのかと反省したことだった。
むろん当地の夜間救急の需要が消失したわけではない。今度は私らのほうが、いまだにがんばっている施設におぶさる立場になっている。申し訳ないと思う。彼らは常勤医だけでも我々の2倍3倍と保持してるんだからと言っても言い訳に過ぎない。しかし夜間救急を通しでやってなお誰も倒さないで済む見込みはたたない。
患者さんたちにも迷惑をかけているのだろうとは思う。外来でも、ここは夜間やってないから何処そこへ行きましたと、ときどき言われるようになった。どう解決するべきなのか。深夜の数名を診て睡眠不足でふらふらの頭で、翌日日中20名とか30名とか診察していた以前の状況に矛盾がないとは言えない。今のほうがまともな仕事をしているような気はする。しかし今の状況も十分とは言えない。
どう転んでも、胸は張れない。胸を張って仕事ができるのは幸せだと思う。うらやましいことだと思う。
東京近郊のうちとしては喘息児をかかえてはいますが、外来で目が真っ赤でヨロヨロの先生(うちの主治医)をみるととてもかわいそうになってしまいます。それなのに、こどもが体調が悪いと「今日当直でいるから、ちょっとでも変だったら来なさいよ」と言ってくださいます。救急を少し減らしてでも、先生にはずっと元気でうちの子を診ていただきたいと思ってます。childdoc先生もご無理なさらないように。
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足りない頭を総動員し、先輩方の意見を拝聴しつつ頑張ります。我々の世代の問題です。
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我が家も、NICU退院直後はよく救急のお世話になっていました。TEEさんと同じく、「あなたの場合は遠慮は無用、心配だったら来なさいよ」と言って下さった主治医の先生には頭が上がりません。ただ、先生だって人間、どんなにか身体を酷使していたのだろうと思います。きっとchilddoc先生も同じですね。医療スタッフの方が、最低限の睡眠時間は確保できるような体制が求められますよね。でも、これからの人口減少時代、医療に関わる方の人口も減ることになるでしょう。何をどうしたらいいのか、分かりません。本当に難しい課題ですね。
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日本の医療現場の現実、悲惨さに泣けてきます。身体あってのお仕事。心あっての労わりです。何かあれば、突然強気になって訴訟の世の中。どうかご無理をなさらない様に・・・・疲弊した医師に診ていただく患者のために。
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TEE様 コメントありがとうございます。主治医の先生の奮闘ぶりは同業者としても誇りに思います。でもやっぱり、おもてに現れるほどの疲労をかかえての外来は宜しくないとも思います。喘息については吸入ステロイドの導入で夜間救急受診の需要はがたっと減りました。今後はHibと肺炎球菌ワクチンの導入で発熱主訴の救急も重症が減ると思います。そのようにして救急需要を発展的に解消して行けたらと思います。
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若手様 コメントありがとうございます。TEE様へのコメントにも書かせていただきましたが、今はまずHibと肺炎球菌のワクチンを行き渡らせることが喫緊の課題かと思います。
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miki_renge様 コメントありがとうございます。無理をして体力を削りながら救急をやって、それでも結局は片手間になって診療レベルが低下して・・・という状況は解消したいと思います。ご指摘のように、難しいですね。ご専門の方の目でも難しい問題なのだなと思いました。
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かじ様 コメントありがとうございます。お言葉のように、よいコンディションで充実した診療をすることが患者さんのためになるのだと思います。私は障害のある息子のためにも、そうそう早死にすることはできません。それは患者さんの利益と相反することではないと思います。
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