クイズです。右寄りにあって普段は役に立たないけど、ときに暴れ出すとはた迷惑でつまみ出されるものってなんでしょう。

- 作者: 平間洋一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 単行本
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左京図書館の書棚にあったので、予約本を受け取るついでに借りて読んでみた。
政治的に中立で客観性を重んじて記載すると宣言する書物の常で、めいっぱい政治的立場が入っていた。大和の建造にあたった人々の機密保持や優れた工程管理を褒め称え、乗組員の「愛国心」をも褒め称えている。特にこの愛国心が戦後軽んじられる傾向にたいして悲憤慷慨の念に堪えない模様である。
しかしその「愛国心」と行っても、それは生存者の戦後の証言や遺書が主な根拠なのだが、いかにも資料収集の段階でバイアスがかかる状況だと思う。大和沈没に際して亡くなった人たちの声なき声を聞かないとなかなか全体像はつかめないんじゃないか。乗組員3000人のうち、自分の死の意義を国家に結びつけて考えるような、海兵卒のエリートがどれだけ居たというのだろう。徴兵されて大和に乗せられ、大和とともに沈んでいった兵士たちの心境はどうだったのだろうか。殺された人の心境について、いや彼らは進んで殺されたのだと述べて称揚することが、鎮魂につながる態度なのだろうか。
むしろ吉田満氏が著書「戦艦大和ノ最期」で述べるところの、高齢や病気のため艦を降ろされる兵士に対する艦内からの無言の羨望こそ、彼らの心境を雄弁に物語っているのではないか。
私が思うに、大和に関する逸話でもっとも美しい台詞とは、沈没寸前の大和艦橋で吉田少尉(当時)が大和とともに沈もうとしたさい、ある高級士官(森下信衛参謀長だそうだが)に叱咤された「馬鹿、若イ者ハ泳ゲ」という台詞だと思う。今の若い者に愛国心が足りないと嘆くご老人は、国の沈没に際して「若イ者ハ泳ゲ」と、つまりは殉死など考えずとことん生き延びろと、言ってやれる気概はあるんだろうか。むしろ逆に、若い者こそ沈む艦に体を縛り付けて一緒に死ねと言いつつ、これで救命艇の自分の席が確保できるぜへへへとほくそ笑むような、現代を嘆く声にはそういう醜い印象がどうしてもぬぐえない。
救命艇しかり、年金しかり。
以下は蛇足かも知れないが。
- 大和の巨大な主砲は、生産力の追いつかない貧乏国の海軍が、より長距離からアウトレンジで攻撃するための秘策だそうだ。テポドンかよ。
- 機密保持に関しては、茶化すようだが、それほど厳重に機密を守られた大和や武蔵が、どうして日本人の心の支えになり得たのかが私には分からない。戦後の(一部の)日本人にとっては大和もゼロ戦も心の支えかもしれない。しかしゼロ戦は終戦間際まで「海軍新型戦闘機」でしかなかったし、大和は存在自体が最期まで軍機だった。「史上最大の46センチ砲を搭載した大和を作ったんだから日本は強いぜ」とおおっぴらに口にしようものならたちまち特高や憲兵にとっつかまってたはずだ。
- 吉田満氏の「戦艦大和ノ最期」にある記載のうち、左舷に集中攻撃を受けて傾いた艦を立て直すために右舷側の機関室に注水するという記載と、満載の救命艇になおもすがりつく兵の手を日本刀で切り落としたという伝聞の記載について、本書では、実在しない話だと断言している。機関室に注水の件に関しては、大和にはそんな機能はないとのこと、日本刀については、救命艇に日本刀を持って行くことはないとのことから、あるはずがないことなのだそうだ。私もこの2点は、本当にあったことだとしたらあまりに辛い話なので、なかったことであって欲しいとは思う。無人の区画に注水するという命令を勘違いしたとか、「日本刀があれば切り落としていた」という仮定の話に尾ひれが付いて実際の話に化けてしまったとか、そういう話であればよいと思う。しかし、「あるはずがないからあったはずがない」という論理の型は、臨床ではまれならずひっくり返される。信じたいこととを信じるという態度は、少なくとも本書では、序文で宣言された態度には矛盾する。
- そのいっぽうで、本書では米国は世論として日本人を全滅させるとの意思を強く持っており、大和沈没後に漂流している日本兵に対して執拗に機銃掃射を加えたと主張している。なんだか沖縄県民を集団自決に追い込んだ論理が21世紀になっても生き延びているようで、意外な主張だと思った。防大卒(1期だそうだ)で自衛隊でもそこそこ出世した著者が、米国の日本人に対するホロコーストの意図を示唆しているのだ。けっこう重大な主張だと思う。もうちょっと慎重にしたほうがよろしいのではないか。
- この点について、吉田氏は漂流中、不思議な米軍機が1機上空を旋回しており、この機が邪魔で機銃掃射が控えられたと証言しているのだが、本書ではこの証言に対する言及がない。なんだか都合の良いところばかりつまみ食いしている印象を受ける。
ちなみに冒頭のクイズの答えは「虫垂」ですよ。