今年度から、過去1年間に超低出生体重児の新規患者を4人以上診ていない、あるいは開頭・開胸・開腹いずれかを伴う新生児手術を6例以上やっていないNICUでは、新生児特定集中治療室管理料1を請求できない決まりになった。同2なら請求できるのだが、それでいただける報酬は1の8割である。2割引というのはかなり痛い。事実上、これは上記条件を満たさない施設に柔らかく退場を促す施策である。
出生数1000にたいしNICUベッド数3という、NICU拡充の量的目標は全国の都道府県において達成できたというのが厚生労働省の認識である。京都でも、京都府下での年間出生数2万に対しNICU認可病床数60、京都市内に限っても年間出生数1万1千〜2千に対し病床数45と、数の上では目標を達成している。
数はそろったということで、政策的には今後は質の向上を目指す時代だ。事実として、極低出生体重児の生存率には、重症度をそろえて比較してもなお施設間格差が存在する。施設間格差に影響する因子のなかに、極低出生体重児の年間入院数がある。多く入院する施設ほど、死亡率が低い。質の向上のために極低出生体重児の入院を特定の施設に集約するのは、方向性としては正しい。他にもいろいろな因子があるだろうから、集約化ばかりを推し進めることには弊害もあるだろう。とはいえ、とりあえずあまりに極端に年間入院数の少ない施設に退場を願うのは、地域全体の新生児医療の水準向上のためには正しいことだろうと思う。
その目で見るなら、自分の新生児科医としての実感として、超低出生体重児(極は1500g未満、超は1000g未満)年間4人というのはかなり緩いラインである。超低出生体重児の直近の出産が予想される緊急母体搬送の搬送先として、超体出生体重児を年間4人以下しか診てない施設を候補に挙げるのはかなりためらわれる。むしろ、よく6人とか8人とか10人とか言わなかったなと、厚生労働省の慎重さに感心したくらいである。
問題は、自分の施設がこの施策によってふるい落とされる側にあるらしいということだ。この施策について話を聞いた時点で、過去の実績から試算してみて、この10年以上、この4人の水準を割り込むことはなかったという結果を得ていた。それで年度当初は鷹揚に構えていたのだが、本年度に入って以降これで5ヶ月間、当施設では超低出生体重児の新規入院が途絶えている。予想外の事態である。
昨年度末までの入院数を計算すると、このまま年末までに超体出生体重児が1人も入院しないということになれば、新生児特定集中治療室管理料1を請求できなくなる。むろんあと4ヶ月はあり、そのうちには1人くらいは入院もあるだろうと言えば言える。しかし過去の実績をふりかえれば、まるまる3ヶ月以上超低出生体重児の新規入院が途絶えたことはない施設なのだから、過去にはなかった何か新しい状況が生じているらしいとは、現時点でも言えることである。
このまま入院がなかったら、施設の方向性としてどうするべきなのか、いろいろ思案している。