年金の本を2冊読んで考えた

年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)

年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)

妻が図書館から借りていたのを、病院から帰ってから読んだ。勉強になった。
急激にいろいろ詰め込んだので頭の中がガンガンしているが、とりあえず、「そういうこととはつゆ知らず」だったあれこれを書き留めておく。

  • 年金の負担の話をするときに、厚生労働省の諸君が言うような、雇用者が半分負担していますなんていうマヤカシは専門家は言わないものである。負担分はきっちり差し引いた上で人件費やなんか計算してあるから、ことに正社員に関しては負担は実質全額労働者持ち。
  • 国民年金の未納があっても年金財政は破綻しないって、だから何? 未納の人らは老後はどうしたって生活保護受給者になる。その生活保護費は全額税金からでるのに。その税金を負担するのはやっぱり国民なのに。
  • 厚生労働省が年金を保険から税方式に変えることにとことん反対するのは、消費税を目的税化して年金をそちらから出すってことは年金特会の省益を財務省に持って行かれるってことだからだ。
  • どうあってもこの急激な少子高齢化のなかでは現在の賦課方式の年金制度は行き詰まるに決まってるのに、マクロ経済スライドひとつまるで機能していない。積み立て方式に舵を切らねばならず、その時期は早いほうがよい。

などなどいろいろと勉強になった。むろん再読は必要だろう。ということでいずれ購入することにする。

本書の難点をあげれば、あんまりお年寄りを悪く言うもんじゃないよ、というくらいか。世代間格差を強調するあまり、「ひとーつ ひとの生き血をすすり」「ふたーつ 不埒な悪行三昧」みたいな醜い浮き世の鬼あつかいだ。鈴木君(と同世代の彼をあえて君付けで呼ぶが)、きみには親がないのか? 私自身としては、この世代間格差がなくては最低4人の老人を扶養しなくてはならなくなるんで、仕送りしなくて済んでいるぶん、現代の年金制度の恩恵を受けていると思う。十分受けていまそれなりに食うに困らず子どもたちも養えてるんで、将来はこの子らの世代をむしることはしないようにしようと思う。俺らの世代でこの世代間格差の連鎖を断ち切らんといかん。

「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)

「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)

続いて本書を読んだ。

「年金は本当にもらえるのか?」において鈴木氏が論破していた厚生労働省の主張を、そのまま繰り返した本だった。「社会保障国民会議」の一員として議論に参加する中で(って最初のうちは何を議論しているかもわからなかったと告白しているあたり、この会議とやらのお里が知れるが)、年金について学んだとのこと。この会議にしたって鈴木氏によれば厚生労働省の御用会議なんだし。

当然のことに本書の内容は鈴木氏によりきれいに論破されている。なんだか解答を先に読んでから問題を解いたような気分だ。あるいは犯人を先に明かす刑事コロンボとか古畑任三郎とかの番組を見た気分だ。年金制度は破綻しません、って、制度の会計は破綻しなくてもさ、このままじゃ将来恐ろしい人数の年金もらえない老人を生み出すことが確定なんだけど、それって年金制度の本質として破綻してるって言わない? 僕ら医者が「病気は治ります。患者さんは亡くなりますけどそれが何か?」って言っても君ら納得しないよね。

それにしても著者は骨の髄から予備校の先生なんだなと思った。教えることの内容には疑問を持たず持たせず、どんな内容であっても効率よく解説して相手の頭にたたき込むというのが著者の神髄なんだろう。年金制度の問題点を解明しろなんて彼には専門外だが、年金制度に関する厚生労働省の官僚や関係者の語りを聞き手に疑問を抱かせなず丸ごと信じ込ませるという点においては恐ろしく適役だ。それを見抜いて著者を巻き込んだ厚生労働省のプロパガンダ力は決して侮れない。

いくつか気になったことを。

  • 著者が、自身が提唱する思考力増強に関して、小学生向けの入試問題を例題に取り上げている。原油価格の高騰が続けばあなた自身の生活にどんな出来事が起きると予想されますか?という質問の著者による回答例がみな「トウモロコシの値上がり」がらみで、その単調さが珍妙だった。思考力ってそれほどのものか? 出題元の玉川学園とやらがどれほどの水準を求めているのかは知らんが。
  • 著者自身は普段は新聞も本も読まないとのこと。効率よく勉強なさっておられるのがご自慢のようだが、教育に関わっててそんな態度では内田樹先生に合気道で投げられるんじゃないか?
  • いいかげん、マスコミを攻撃して悦に入るのは止めようや。もうそれが受ける時代は終わった。

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