絶滅危惧種のつぶやき

私は医師3年目から5年目まで、滋賀県の僻地にある公立病院に勤務した。今で言うなら後期研修医にあたる時期だが、一人前に外来もしたし、おおくの新生児の主治医もした。出生直後から退院、その後のフォローアップまで。加えて土地の乳幼児健診にも出務して、たくさんの乳幼児に接した*1。6年目からいまの職場に赴任した。私の経歴は、フォローアップから始めてNICUに入ったというものである。当時はあまり奇異にも思わなかった。

しかしそういう経歴で新生児医療に入ってくる医師は、今後はもういないのだろう。多くの大規模NICUでは、フォローアップは特に当直が辛くなった等の事情でNICUの第一線を退いた医師の仕事である。妥当と言えば妥当な仕事だ。医療においてもその他の人生全般についてもそれなりに経験を積んでいたほうがよかろうし、就学までフォローするとしても7年は必要となれば終身職を得た常勤医でないと不都合だろう。それはそういうものだと思う。

場末のNICUにいると医学生や研修医時代の先生方と接する機会が少なくて、彼らの実情を直接確かめることがなかなか困難なんだけど、いろいろな経路で間接的に伝わってくる情報を考えると、私らのころより今の研修医達はよほど自分のキャリア形成について意識が高そうである。私もまあ当時には珍しかった「大学病院では研修しない道」を選んだ人間だし「意識の高さ」を揶揄する意図も資格もないのだが*2、でも今どきの意識の高い研修医達は、研修医が外来枠を任されたり長期にわたるフォローの責任を負わされたりするような、リスクマネジメント的に危うい施設は敬遠するんだろう。施設側としても、あえてそのリスクをとろうとする研修医に応じる気概はなかなかないだろう。

新生児医療はやりがいのある分野だし、選択する若手はなかなか目が高いと思う。目が高い若手は早期から目標を定めて、キャリア計画のもと脇目も振らず研修するんだろうと思う。青年負いやすく学成り難し*3。でもそういう無駄のないキャリアを歩む新生児科医ばかりになると、私のような横入り組は絶滅するんだろうと予測する。そうしたときにNICUの風合いが変わるのではないかと一抹の危惧はある。

*1:自分の長男がその中で接した最重症だった

*2:私が大学病院を避けたのは、指導もろくにせずまともな給料もくれず食費も救急処置の技量もアルバイト先で入手するのが前提なのを嫌っただけの逃げの選択なんだけど。

*3:初期研修2年後期研修3年で小児科専門医取得、さらに3年新生児専門医研修して新生児専門医取得、4年間大学院に行って博士号取得、さらに海外留学2年、合計14年。24才で医師免許とって14年したら38才。

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