感染防止の勉強会(3)

感染対策のみ、と称したが、感染対策は単体でも十分に大きなテーマである。
スライドに、ディスポ手袋の箱が各辺1mはあろうかという巨大な立方体に積み上げられ、その上に注射薬が一瓶ちょこんと載った写真が映し出された。
曰く、この薬(品名は出されなかったが塩酸バンコマイシンだろうと推測される)とディスポ手袋7800枚とが同じ値段、とのこと。
ディスポ手袋を活用して医療従事者が患者さんの皮膚に直接触れることを極力減らし、医療従事者の手指を介する院内感染を防ごうと主張するスライドである。


医療従事者の手は汚いのである。
汚い手で患者さんの皮膚に触れるのは無礼なことなのだ。今日び、患者さんのケアに際して手袋をするのは余所余所しくて失礼だなどと時代錯誤の寝言をいってはいかんのである。
ちなみにここで「院内感染」という語は、「入院48時間以降に判明した感染症」をさして用いられる。
詳しい調査の結果として院内での感染経路が確認され病院の管理責任が問われる事態になって初めて「院内感染」と呼称される、などと言う「ぬるい」語ではない。入院前に感染症に罹患していたとしても48時間もあれば気が付くだろうという精神らしい。その程度の診療能力を持ってない病院は潰れてろってことだろうか。麻疹なんて潜伏期は2週間からあるのにと小児科医としては釈然としない部分もあるが、病歴として詳細な接触歴を聴取しておくのも診療のうち。
院内感染の治療費を健康保険が何も言わず負担してくれるような、お目出度い態勢を取っている国は、日本だけである。
米国では院内感染の治療費は病院負担らしい。治療費を負担した上、訴訟となれば損害賠償も生じる可能性がある。ディスポ手袋7800枚分の価格の薬を毎日何本も自腹で使って患者さんには感謝されない敗戦処理的治療を続けた挙げ句、損害賠償請求までされる。そんな情けない事態を避けるためなら、それはもう、必死になって院内感染対策を行うことだろう。
また彼の国で種々のガイドラインが詳細に作成されているのもまた道理である。ガイドラインに則っての治療行為なら少しは賠償額も減じるかも知れない。ガイドラインに沿ってなかったとしたら敗訴は確実であろう。懲罰的賠償などという判決になっては目も当てられない。

翻って、日本ではどうか。
別に院内感染があっても、訴訟にさえならなければ病院の懐は痛まない。むしろ、その治療でさらに病院に収益がもたらされる構図になっている。
無事にNICU入院を乗り切って帰る超未熟児よりも、感染症を繰り返してくれる未熟児の方が、日本の病院としては儲かるのである。
昨今、医療訴訟が急増するまで、日本の病院では院内感染対策がさっぱり人気がなかった理由である。
院内感染対策費は、病院経営者にとっては「持ち出し」なのである。院内感染対策を行っても儲からないのだ。経営的には、潜在的な訴訟を避け得るというメリットしかない。
しかしここでは、「お爺ちゃんの教訓」を持ち出さなければならない。
商売は「3よし」なのである。
「客よし、自分よし、世間よし」の3よしが揃って初めて、商売は成り立つのである。
院内感染対策費を出し惜しみするのは、自分よし、でしかない。3よしのうち1よしである。自分よしでしかない行動はともすれば犯罪と呼ばれる行動である。

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